「今日からお前の名は’・ブラッドレイ’だ」


と、言われた。ブラッドレイの名を名乗るということは、自分も大総統に相応しい 人物にならなくてはならない。自分は、軍人となるのだ。


「--------はい、’キング’」



を捨てて、・ブラッドレイとなる。ケイへの呼び方を変えた。 人と話すときの口調を変えた。そう、全てを変えて、生きて行く。











タァンッタァンッ!!


トリガーを引くと、銃弾はまっすぐに狙った場所へと飛んで行く。人の形をした板に 心臓と脳天の二つの場所に穴が開き、銃口からは硝煙が上る。


「・・・ふぅ、」


何発打ち続けていたのか、手が麻痺してしまって、指の感覚がない。 一息つこうと銃を手放し、近くにあるベンチへ座る。縛っていた髪を解いていると、 こちらへと向かってくる足音が耳に届いた。


「--------キング」


まさかこんな時間に射撃場を訪れるとは思わなくて、立ち上がろうとするが、身体は思った以上に 疲れていたのか、ベンチに根を張ったように立ち上がることができなかった。キングはそれに 笑みを浮かべて、「そのままでいい」と軽く手を上げる。


「こんな時間まで練習していたのか」
「はい。キングこそ、こんな夜分まで何を?」


ここのところ仕事続きで、久しぶりの休暇だから今日はゆっくり休むのだといっていたのに。 隣に座ったキングを見上げながら首を傾げる。


「・・・妙に目が冴えていてな」
「何かあったのですか」
「いや、何も」


そう言ってふ、と笑い、の頭に手を置く。そうすると、へにゃりと顔を崩して、 ひどく安心した様子で目を瞑り、口を開いた。


「そういえば、また戦場に出られるのだそうですね」


ケイがキング・ブラッドレイというレールに乗せられて、何度目の戦場行きだろうか。 最強の目があるから、決して死ぬような事態には陥らないのだが、それを見送るだけのには 空恐ろしさを感じる。全く、’お父様’とやらは何を考えているのだろうかとはいつも思う。


「ああ。大丈夫だ、またすぐに帰ってくる」
「・・・分かっています」


それでも心配せずにはいられないのだ、との声色が訴えた。それに苦笑を零して、 頭に添えられた手を動かす。ゆっくりと撫でていると、目を瞑っていたの目が薄く開いた。


、お前も士官学校へ通うのだろう」
「はい。・・・・しばらく、お別れですね」



そうだな、と優しい声が降ってきた。キングの側に立つには、軍人として、色々なことを学ばなければならない。 『大総統』となったキングとは違い、士官学校からという最低レベルから始める第一歩だ。 学校に入るためにもある程度待たなければならなかったが、も今年で12。 身体的にも育ち、ようやく此処までたどり着いた。それでもまだ先は長いのだが、 できる限り飛び級でやってやろうと決意する。



「寂しいですけど、頑張ってきます。・・・怪我、しないでくださいね」


-----------士官学校に通っている間は、怪我をしても自分が手当てなどできやしないから。 だから、それだけを願う。


「ああ・・・行って来い」






明日発つのが早いからといって部屋へ戻るの後姿をじっと見つめる。あれから10 年。あれほど小さかった体躯も、大きくなった。それでもまだ子供といえる体型なのだけれど、 ピンと伸びた背中は幼さを感じさせないほど。嬉しいことなのだろうに、キングは時々 その背中に泣きたくなる。


町へ出るとあれぐらいの年の子は無邪気に遊んでいて、未来に希望を抱いた顔つきをしている。 何が、どこから間違ってしまったのだろう。の未来は、どうしてこんな風に潰えてしまった のか。彼女を迎えに来たのは他ならぬ自分だが、軍人になると確固たる決意をしたのは 自身だった。



キングに引き取られたが銃を取ったのは5歳のとき。剣を取ったのは7歳のとき。 士官学校に入るには年齢制限があるからと、それからずっと独自に鍛錬を続けてきた。 今ではすっかりプロ級に扱えるようになった。それならば士官学校で習うべきことはあまりありはしないが、 すぐさま戦場へ出すのはキング自身が躊躇った。だから、せめて猶予をと士官学校へ送り出したのだ。



だけれど、きっとキングの躊躇いも自身が切り捨てるだろう。彼女はキングの側に立つことに 異常に執着している。まるで、それだけが生きる希望みたいに。


彼女は、人を殺す覚悟をして、再びキングの側に立つ。



その時は、----------------




「キング」



突然、が振り向いた。内心驚きながら、冷静に言葉を返す。


「なんだ?」
「・・・・・・・・行ってきます」



------その時、彼女は、自分は、狂ってい る  のだろ   う。