汽車を降りると、そこはあまりにも活気のない街だった。いかにも肉体労働系の男たちが そこかしこで働いている。自然と空を仰ぐと、どんよりと淀んだ空が見えた。


「皆さんお疲れっぽい・・・」


アルフォンスも同じ意見を持ったのだろう、思わず呟いた言葉に同意するように頷くと、 エドワードの頭からごん、と大きな音が鳴った。音の発生源を見ると、少年が木材を抱えて 立っている。


「エドワードさん、大丈夫ですか?」
「いってーなこの・・・」


木材が後頭部に直撃したらしい。結構大きな音も鳴ったことだし、普通なら頭蓋骨陥没ぐらいになってるの ではないだろうか。そう思って、地面に座り込んだエドワードに手を差し出してみたが、 その原因の少年に元気に怒鳴っていることだし、怪我はないようだ。



「客、金ヅル!」
「金ヅルって何だよ!」


少年とエドワードのやり取りが大変微笑ましい。ふふ、と思わず漏れた笑みに気付いたのか、 アルフォンスががしゃんと金音を響かせてこちらを振り返った。


さん?」
「あ、すみません。面白くて・・・」


そう言うの視線の先を辿ると、兄のエドワードと少年がいた。どう見てもエドワードのほうが 年上だろうに、本気でやりあっている姿を見ると、短気にも程があるだろうと思う。 小さい頃から変わらぬ兄の姿に苦笑しつつ、「だって兄さんだからね」と告げる。


「って、ああ!さん、兄さんが先に行ってる!」
「あらあら、では私たちも行きましょうかねえ」













エドワードの後に続き店に入ると、エドワードは早速今日の夕食を頼んだ。相当お腹が空いていた らしい。ついでに自分も注文すると、エドワードは値段を尋ねた。


すると、店の親父が「高えぞ?」と言って、にやりと笑う。


「ご心配なく、結構持ってきてるから」
「20万」


ドガンッ!
エドワードは頭から床に落ちる。見ただけでも痛そうだ。それにしても20万。 エドワードがぼったくりだと騒いでいるが、確かにこれは高い。一応もそれなりの お金は持ってきているが、一泊で20万は馬鹿馬鹿しくなってくる。


溜め息を、一つ。
ふと後ろを振り向くと、エドワードとアルフォンスが何やらこそこそと内緒話のようなものを している。かと思うと、カヤルと名乗った少年が、いきなり大きな声を上げた。


「親父!この兄ちゃん錬金術師だ!」



---------錬金術師。

パン、と両手を合わせると、エドワードの手から光が漏れる。練成反応だ。大きな光に カヤルが目を瞑ると、あっという間にツルハシは新品同様になっている。


(すごいですねえ・・・)


よく聞けば、エドワードは国家錬金術師らしい。そういえば3年ほど前、最年少国家錬金術師が誕生 したと聞いた。名はエドワード・エルリック、鋼の錬金術師。最終試験で練成した武器を向けられた、 とキングが何故か嬉しそうに言っていたっけと思い出す。



「えらい嫌われようだね」


鎧の中でくぐもったような、そんな独特の声が聞こえて、は思考を停止した。 考え込んでいるうちに、雰囲気はシリアスモードである。それも、よく見ればエドワードがいない。


「アルフォンスさん、エドワードさんは?」


声を潜め、アルフォンスに尋ねる。すると、アルフォンスは苦笑した様子で、「追い出されたよ」 と同じように声を潜めて言った。どういうことだろうか。鎧の目の空洞を見つめる。



「お上に文句を言おうにも、奴らヨキとワイロで繋がっているから握りつぶされ!」
「なっ!最低だろ!!」


カヤルが憤慨した様子でそう告げた。


(それにしても・・・)


「ヨキ、ね」


こんな東の炭鉱を経営しているぐらいだ。恐らく軍位の地位は高くない。そして、ご執心 に賄賂を贈るということは、出世欲が無駄に強く--------そう、あの男の、ような。


レイブン。

連鎖してあのひげ男を思い出し、胸糞が悪くなった。ぎり、と唇を噛み締める。


?具合悪いの?」


顔を伏せてしまったを心配して、アルフォンスが声をかけた。吐きそうだと勘違いしたのか、 大きな鎧の手が優しくの背を撫でる。


「・・・いえ。何でもありませんよ」


それを笑顔でやんわりと拒否し、は席から立ち上がった。


「アルフォンスさん、私ちょっと出てきますね」
「え?」
「明日には・・・戻ります」