汽車を降りると、そこはあまりにも活気のない街だった。いかにも肉体労働系の男たちが
そこかしこで働いている。自然と空を仰ぐと、どんよりと淀んだ空が見えた。
「皆さんお疲れっぽい・・・」
アルフォンスも同じ意見を持ったのだろう、思わず呟いた言葉に同意するように頷くと、
エドワードの頭からごん、と大きな音が鳴った。音の発生源を見ると、少年が木材を抱えて
立っている。
「エドワードさん、大丈夫ですか?」
「いってーなこの・・・」
木材が後頭部に直撃したらしい。結構大きな音も鳴ったことだし、普通なら頭蓋骨陥没ぐらいになってるの
ではないだろうか。そう思って、地面に座り込んだエドワードに手を差し出してみたが、
その原因の少年に元気に怒鳴っていることだし、怪我はないようだ。
「客、金ヅル!」
「金ヅルって何だよ!」
少年とエドワードのやり取りが大変微笑ましい。ふふ、と思わず漏れた笑みに気付いたのか、
アルフォンスががしゃんと金音を響かせてこちらを振り返った。
「さん?」
「あ、すみません。面白くて・・・」
そう言うの視線の先を辿ると、兄のエドワードと少年がいた。どう見てもエドワードのほうが
年上だろうに、本気でやりあっている姿を見ると、短気にも程があるだろうと思う。
小さい頃から変わらぬ兄の姿に苦笑しつつ、「だって兄さんだからね」と告げる。
「って、ああ!さん、兄さんが先に行ってる!」
「あらあら、では私たちも行きましょうかねえ」
*
エドワードの後に続き店に入ると、エドワードは早速今日の夕食を頼んだ。相当お腹が空いていた
らしい。ついでに自分も注文すると、エドワードは値段を尋ねた。
すると、店の親父が「高えぞ?」と言って、にやりと笑う。
「ご心配なく、結構持ってきてるから」
「20万」
ドガンッ!
エドワードは頭から床に落ちる。見ただけでも痛そうだ。それにしても20万。
エドワードがぼったくりだと騒いでいるが、確かにこれは高い。一応もそれなりの
お金は持ってきているが、一泊で20万は馬鹿馬鹿しくなってくる。
溜め息を、一つ。
ふと後ろを振り向くと、エドワードとアルフォンスが何やらこそこそと内緒話のようなものを
している。かと思うと、カヤルと名乗った少年が、いきなり大きな声を上げた。
「親父!この兄ちゃん錬金術師だ!」
---------錬金術師。
パン、と両手を合わせると、エドワードの手から光が漏れる。練成反応だ。大きな光に
カヤルが目を瞑ると、あっという間にツルハシは新品同様になっている。
(すごいですねえ・・・)
よく聞けば、エドワードは国家錬金術師らしい。そういえば3年ほど前、最年少国家錬金術師が誕生
したと聞いた。名はエドワード・エルリック、鋼の錬金術師。最終試験で練成した武器を向けられた、
とキングが何故か嬉しそうに言っていたっけと思い出す。
「えらい嫌われようだね」
鎧の中でくぐもったような、そんな独特の声が聞こえて、は思考を停止した。
考え込んでいるうちに、雰囲気はシリアスモードである。それも、よく見ればエドワードがいない。
「アルフォンスさん、エドワードさんは?」
声を潜め、アルフォンスに尋ねる。すると、アルフォンスは苦笑した様子で、「追い出されたよ」
と同じように声を潜めて言った。どういうことだろうか。鎧の目の空洞を見つめる。
「お上に文句を言おうにも、奴らヨキとワイロで繋がっているから握りつぶされ!」
「なっ!最低だろ!!」
カヤルが憤慨した様子でそう告げた。
(それにしても・・・)
「ヨキ、ね」
こんな東の炭鉱を経営しているぐらいだ。恐らく軍位の地位は高くない。そして、ご執心
に賄賂を贈るということは、出世欲が無駄に強く--------そう、あの男の、ような。
レイブン。
連鎖してあのひげ男を思い出し、胸糞が悪くなった。ぎり、と唇を噛み締める。
「?具合悪いの?」
顔を伏せてしまったを心配して、アルフォンスが声をかけた。吐きそうだと勘違いしたのか、
大きな鎧の手が優しくの背を撫でる。
「・・・いえ。何でもありませんよ」
それを笑顔でやんわりと拒否し、は席から立ち上がった。
「アルフォンスさん、私ちょっと出てきますね」
「え?」
「明日には・・・戻ります」