ざあざあ、ざあざあ。
打ちつける雨が、傷に染みて痛い。頭や顔から、そして身体から流れる血は、雨に飲み込まれ
段々と消えていく。
さむい。寒い寒い寒い。寒い。痛い。・・・消えたい。
「化け物」
「九尾」
「狐」
「お前なんて死ねばいいのに」
いやだいやだ嫌だ、もう何も考えたくない。消えろ消えろ消えろ。五月蝿い、九尾。
このまま、消えていくのかな。誰も助けてくれない。村人は、俺を恨んでいる。・・・じっちゃん。
じっちゃん、おれ。おれ、もう、
「・・・・おや?人、ですか」
子供の声がした。それが、俺の意識が途切れる最後に聞いた言葉。
*
「!!」
バタァン!という激しい音を響かせて部屋に入ってきたのは、黒髪を濡らしたセリムだった。
外は雨が降り続いているから、傘を持っていったはずなのだけれど、どうして濡れているのだろう。
そこを疑問に思いながら、は嬉しそうに笑うセリムを一瞥する。
「セリム、扉は静かに閉めるように」
壊れてしまいますよ、と忠告して再び手に持った書籍に目を落とす。
「、違うんです。さっき子供拾ったんですよ!」
「元の場所に返してきなさい」
「えー!」
「そんな膨れっ面しても可愛くないですよ」
大体中身がそれじゃあ騙されるもんも騙されない。
「・・・で、何の子供ですか?猫?犬?狐?」
「人間です」
「へーそう、人間・・・・・・・人間!!?」
思わず本を置いて立ち上がると、「ん・・・」と小さく唸る声がセリムの背後から聞こえた。
何をしたのか、かなり傷だらけだ。は大きく溜め息を吐くと、気を失っている様子の子供に
近づき、額に手を当てる。
「熱がありますね・・・。セリム、ベッドに寝かせてください」
「はーい」
無駄に元気よく右手を挙げたセリムから目を逸らし、戸棚の薬を探る。ええっと、風邪薬を
前の世界から持ってきてたような。あとは冷えピタと、タオルと氷と・・・服も着替えさせて・・・。
ぶつぶつと言いながら部屋の中を歩き回っていると、ガタンッと大きな物音がした。
まるで何かにぶつかった音の様だ。ひょい、と寝室を覗き込むと、小さな子供が頭を抱えて
いた。
「っせ、セリム!何してるんですか貴方!」
「運んでただけですよ?」
「引きずって?!」
「私の体系で彼を運べるわけないじゃないですか」
何を当たり前のことを、と言うようにセリムは首をかしげた。確かに、セリムはあの世界と同じ
小さい身体のままだ。大きくなろうと思えばなれるらしいが、どうやら子供の姿の方がいろいろと
使えるらしい。セリムを見て、次いで小さな子供を抱き起こした。どうやら引きずった
セリムによって机の脚に頭を激突させたらしいが、意識が戻るには到っていない。ほ、
と息をついて小さな身体を抱き上げた。
あまりにも軽い。見たところ五歳前後といったところか。揺れる金髪を撫でながら、
ゆっくりとベッドに横たわらせる。
「セリム、まさか貴方、家まで引きずってきたからこんなに汚れてるんじゃないでしょうね」
「・・・引きずってきましたけど、もともと汚れてましたよ、この子供」
「もともと?」
「はい、何やらリンチでもされたようでしたけれど」
リンチとは、物騒だな。「忍」が存在しているらしいこの世界は、平穏に満ち溢れていた。
時々臭う血と、殺気があったけれど、それを除けば幾分と平和だと思っていたのに。こんな子供にさえ
手を出す村だったとは。呆れてものもいえない。とりあえず、この子供の治療が先かと
はベッド際を立った。
*
温かい。ぽかぽかと暖かなそれは、まるで何かに包まれているようだと思った。心なしかいい匂いもする。
もしかしたら、自分は死んで、ここはすでに死の世界なのかもしれない。気持ちがいいし、
温かい。けれど、九尾の自分が天国になんかいけるわけがなかった。だったら、ここは地獄なのか。
そう問われると、困ってしまうのだけれど。
段々と覚醒してきた意識をそのままに、目を開ける。ゆっくりと飛び込んできたその天井は、
自分の家でも、ましてや優しい老人の家でもなかった。
「・・・あ、起きられました?」
「・・・?」
声のするほうに目を向けると、そこには優しげに笑う女が立っていた。これは、誰だろう。
老人の部下でも、村人の中でも見たことはない。なんだか独特な雰囲気の持ち主だった。
いつもであれば、自分は殺されるかもしれないと怯えて、そうして逃げた。ときには殺した。
けれど、彼女は怖くないと思った。
「痛くないですか?」
「・・・うん」
自分が喋ると女は一瞬瞠目して、再び元の笑顔に戻った。綺麗な顔だ。顔立ち云々も
たいそう整っているが、笑った顔が特に綺麗だと思った。それゆえ、右目を覆う眼帯が
邪魔だなあと、ぼんやりとした意識の中で思う。
「起きられます?おかゆ、作ったんですけど」
「・・・おかゆ?」
何それ、といわんばかりの顔で、子供は尋ねた。子供のビー玉のような蒼い目と、の
黒曜が交じり合う。はふんわりと微笑んで、子供の口元におかゆを運ぶ。
「熱いですよ、気をつけてくださいね」
「・・・・・うん」
子供は可笑しいと自分でも気がついていた。普段は人から貰った食べ物は食べない。その中に
毒や何かの薬が入っていることが多いからだ。その所為で死に掛けることも多々あった。
けれど死ぬことはない、九尾が器を死なせないように毒を浄化するからである。
しかし毒で死ぬことはないといっても、尋常ではない痛みはあった。でも、目の前で笑う
彼女からの食べ物は、無条件で安心させてくれる。
もしかしたら、見たことも無い母に雰囲気が似ていたかもしれない。
「お名前、なんて仰るんですか?」
「-----------------ナルト」
(2009.8.19)
子供、拾いました。(セリムが)
いろいろすっ飛ばしてのスタート。無茶振りにも程があるぜ\(^o^)/
この多重シリーズは、セリム君とのトリップです。基本。「最後まで〜」
の方はまだ続きます。