そして世界は産声を上げた-Z
「な、な、なんで夜も一緒なんだ!!」
悲鳴にも似た政宗の叫びが、漆黒の闇に響き渡った。
◆ ◆ ◆
時間はほんの少しさかのぼる。
義姫の下に行ったが政宗の部屋に幾分かげっそりした顔で戻ってきた。
思わず何かあったのか?と聞いてしまいそうなほど顔色は悪い。
部屋にいた政宗も小十郎も嫌な予感を感じながら、とりあえず湯殿にでも入ろうかと
部屋を出、再び戻ってきたときには---------布団が、二組あった。
「・・・あ?」
「政宗様、お帰りなさい」
「え、は?」
ちょっと待て、状況が飲み込めない。知らずずきずきと頭が痛んだような気がして、眉間を揉む。
この状態が、自分の幻覚だったらいい。この状況が-------------
「わたしも、今日からこの部屋で寝ますから」
「・・・・・今何つった?」
政宗の布団の隣に隙間なく並べられたもう一式の布団。その布団の上に正座し、
障子の前から動かぬ政宗を見つめると目をあわす。
とりあえず寒いから戸を閉め、自分も布団の上に胡坐を掻いて座った。
「ふざけてるのか」
「いいえ。大真面目です」
「・・・・・・・・・・母上からの命令か」
「はい」
命令にしてはずいぶんと義姫の顔が愉快そうに歪んでいたけれど。それでも命令に変わりはない。
首を縦に振ると、政宗がぶるぶると身体を震わせる。
「な、な、何で夜も一緒なんだ!!」
「分かりませんけど。でも義姫様が仰ってたんですから、抗議しても無駄だと思いますよ」
政宗にそう言ったはいいが、自身も未だに理解できていない。
「どうして」と義姫に聞いたが、「命令じゃ」と愉しそうに口を歪めただけで部屋を追い出されてしまったのだから。
の表面上の冷静さに落ち着いてきたのか、深い溜め息をついた後、政宗は布団に入り込んだ。
「・・・どうせ無理だろうな。母上も考えを変えたりしないだろうし」
それを聞きながら、火鉢の炭に灰を掛け、火を消す。ついで蝋燭の火を吹き消すと、
も自分の布団に潜り込んだ。
「うう、さむい・・!」
布団は痛いほど冷えている。少しでも温度を体中にまわそうと、小さく身体を丸める。
本当に、ここにいると元の世界の機器が欲しくなる。
暖房とか、行火(あんか)とか、電器カーペットとか。
「-----------オイ、煩い」
「すみません。・・・・・・あの、政宗様」
「・・・なんだ」
幾分か迷いを見せた後、は躊躇いながら声をかけた。
「---------------そっち、いってもいいですか」
「なに、いってる?」
「だって寒いんですよー!何でこんな寒いんですかこたつが欲しいぐらいです」
(こ、こいつは・・・!!)
寒いからといって主の布団に入ろうとするとは、なんて遠慮のない奴なんだ。
布団に丸まってがたがた震えているを一瞥し、一言。
「来るな」
「えぇ、!」と隣から声が上がった。その声を無視し、背を向ける。
くしゅんっ
「・・・・・・・はぁ。・・・こっちこい」
「え、いいんですか?」
「(そこまであからさまにくしゃみされてから言われてもな)」
戸惑いながら、それでも嬉々とした表情で政宗の布団に入り込む。
やはり自分一人よりも温かくて、これで安眠できそうだ。
「政宗様、お休みなさい」
「・・・・・・・・お休み」
そう言いあってから数分後、すうすうと後ろから聞こえてきて、ずいぶんと寝つきがいいものだな
と政宗は息を吐いた。 身体は触れていないのだけれど、背中越しにその温かさが
伝わってきて、体が弛緩する。
誰かと一緒に寝るなど、何年ぶりだろうか。
いつもの暗闇も、何故だか違うものに見えた。
「ぅ、・・・・?」
そっと目を開く。障子の向こうから光が差し込み、朝の冷たい空気に身体を震わせる。
隣を振り返ると、もはやもぬけの殻で、どこに行ったのかと寝起きのぼんやりとした頭で思う。
朝の仕事でもしているのだろうか。 どちらにしろ自分を起こしに来るだろうから、
もうひと寝入りしようかと身体を横たえる。
「-------さ、------の?」
「え---------------で、き-----------」
聞き覚えのある声。外から話し声が聞こえて、政宗はようやく身体を起こした。
(朝から何やってるんだ)
置いてあった着物に腕を通し、さらにもう一枚羽織ると、障子を開ける。
「あ、梵おはよー」
「政宗様、おはようございます」
「・・・・・・なに、やってるんだ?」
政宗の視線の先には、雪に塗れた成実との姿。政宗の疑問に「雪遊びです」とが答えると、
「梵もやる?」と成実の声。
いつからやっていたのか、二人とも鼻の頭が赤い。
「ちゃんとね、なんだっけ、スノーマン?を作っててさー」
「すのーまん?」
「ああ、雪だるまのことですよ」
こんなに雪が積もってますし、前から遊びたいなと思ってたんですよね。そしたら成実さん
が来て、一緒に作ってました。と笑う。
の隣を見ると、成実も同じように笑っていて、昨日はあれほど義姫の部下だ、と
苦々しい表情だったくせに。肩の力を抜いて、政宗も二人の間に混じった。
それから少しした後、小十郎が政宗の朝餉を持ってきて、雪の中で遊んでいる三人を目撃する。
三人揃って正座させられ、小一時間ほどの説教が足をしびれさせた。
<2009.2.7>
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