そして世界は産声を上げた-\







・・・いいのか」
「いいんですよ。わたしの兄は、紅麗様だけですから」


だからどうかそんな顔をしないで。烈火さんではなく、紅麗様を選んだのは わたしなのだから。



「戦います。------------だから、」



あな た  を護るた めの 力を  。






◆    ◆    ◆






--------絶望的だった。
政宗が目を反らしてしまいたくなる惨状が、部屋の中に広がっている。 あれだけ騒いだはずなのに、小十郎も他の人間も誰も部屋を訪れず、状況は最悪のまま。
血が飛び散って、の顔色は傍目にも相当悪い。


「・・・っ、」
「・・手間かけさせやがって」


敵の一人が悪態をついた。ぺっ、と口から唾を吐き出し、の顔にかかる。
けれども、はピクリとも動かなかった。



「、ぁ、・・・!」



----------死の静寂。

を足蹴にした敵は、血に塗れた刀を手にし、一歩一歩政宗に近づいてくる。
その顔にはが抵抗した証である傷跡がいくつも刻まれていて、その後を血が流れ落ちた。



殺 してや りたい 。殺してやりたいぐらい憎いのに、政宗には敵を殺す技術が、 武器が、覚悟が、ない。


------------悔しい。



精一杯近づいてくる敵を睨みつけるが、刀は無情にも政宗に振り落とされた。







「政宗様・・・!」


血を流しすぎた所為で、視界に靄がかかっている。助けに行かなければならないのに、 足に力が入らない。
ずくずくと身体を苛む鈍痛。


「い、やだ!まさむねさま・・・・・・!!!!」


------------パァンッ

一つの銃声。
ぐらりと崖下へ落ちてゆく身体。
イヤラしく嗤った、おと こ。


「紅麗様」

---------置いていかないでよ、ねぇ。





「ああああああああああああ!!!!」


ずん、と身体から何かが抜け出るような感覚がした。 熱くて、痛い。
先程までの暗闇と正反対に、眩いほどの炎が、を渦巻いている。
敵の一人が、の背後を見て驚いたように目を見開いた。


『力が、欲しいか』
---------------ちから。

『呪われた力だ』
--------欲しい。力が、欲しい。

『ならば・・・分かるか、私の使い方が』
------------使い、方?

『・・・’印’を、書けばいい』
--------印?

『そうだ。お前の兄も、やっていただろう?』
--------------兄さん。


主である治癒の少女を護りながら、戦っている彼を思い出した。
そう、自分にも、彼と同じ炎術士の血が流れているのなら。


『私の名は--------』

記憶の通りに、その’名前’を指でなぞった。




「-------------『崩(なだれ)』」




名を紡ぐと同時に背後から炎の弾が放たれ、呆気にとられた敵の身体に吸い込まれてゆく。
もちろん、逃げてもたくさんの弾が襲い掛かり、逃げ道など存在しない。
気を失って動かない政宗に当てないようにしながら、二人の敵を火達磨にして、殺した。




「政宗様・・・・」



重たい身体を引きずり、政宗の様子を確認する。顔色は悪かったが、怪我はしていないようだ。
ほっと安堵の息を吐くと、今までの疲れと緊張で意識が混濁してくる。




『---------------------手助けするのは、今回だけだぞ宿主』


さっきの轟音でさすがに気付いたのか、こちらに駆けて来る足音が聞こえた。
それに安心しながら、頭の中に響く声に「ありがとう」と一言告げた。








政宗が目を開けたのは、小十郎たちが倒れこんだたちを見つけてから二日目のことだった。



「・・・ここは、」
「政宗さま・・・!起きられましたか」
「小十郎?・・っ!!」


布団から起き上がろうとすると、突然の眩暈が政宗を襲う。「病み上がりなのですから、いきなり 起き上がらないでください」と言う諫める小十郎の声に、再び身体を横たえた。


---------自分は何をしていたのだったか。

意識がなくなるまでの記憶が曖昧だ。痛む頭を和らげようと、米神を指で解す。 何度もそうしていると、断片的に出来事がよみがえってくる。

そう、刺客が政宗を襲って----------が・・・


!!!!!」


全てを唐突に思い出した。
そうだ。刀が目の前に迫って、それからの記憶がないが、 ここにいるということはすべてはすでに終わっている。政宗が最後に見たのはぴくりとも 動かないの姿だ。


「・・・小十郎、はどうした?」


無事なんだよな?と記憶の最後の姿に焦りながら小十郎の袖を引く。
めったに見ない主のその焦りように、小十郎は瞬いた後、


「決して無事とは言いがたいですが・・・・生きていますよ」
「本当か!!」
「ええ。ただ、重症なので別の部屋にいるそうです」



『重症』。分かってはいたことだったが、改めて言われると愕然としてしまう。
血だらけだった姿を思い出して、政宗は唇を噛んだ。



「・・・政宗様?」


『やめろ』と言う政宗の言葉を無視して、ひたすらに護り続けた彼女。 自分にも力があれば、こんなことにはならなかったのに。
ただ護られるだけだった自分が、嫌だ。




「小十郎・・・・・・刀を、教えてくれ」
「政宗様・・・」
「護りたいんだ。自分の手で」


力がないことに絶望したなら、力をつければいい。
傷つけたことを後悔するのなら、傷つけないようにすればいい。






「---------だから、人を護る術を、教えてくれ」





<2009.2.12>