貪欲な右手-U
『そろそろ、か・・・』
一つの炎が、思い出したかのようにそっと呟いた。
『やはり烈火と同じように・・・』
『求めたら求めたで、我らは試すだけだ』
----------八竜を扱うのに相応しいのかを。
『紅麗の元にいたが、大本の性格は烈火に似ている』
『ククッ!・・・・・・・来たら殺してやるよ!』
二度目の会遇は、すぐそこだった。
◆ ◆ ◆
竹刀をまっすぐ振り下ろす。そのまま当たるかと思えば、それは至極簡単に受け止められて、
弾き飛ばされそうになる。 両手で竹刀を握りなおし、体重を掛けるとみしりと軋む音が
道場に反響した。
「っ、!!」
このまま拮抗していてもどうしようもない。体勢を整えようといったん後ろへ下がる。
ぎゅ、と竹刀を握りなおし、目の前の人物を見据え、もう一度足を踏み出した。
振り下ろすと同時に衝撃の走る手の甲。
「い、っあ」
弾かれた、と気付いたのは、自分の握る竹刀が吹き飛んで床に叩きつけられた音
が耳に届いた後だった。
「そこまでです」
「・・・はー」
「痛い・・・」
勝負を見届けた小十郎の言葉に、向き合っていたと政宗は身体を弛緩させる。
じんじんと痛む手の甲を擦り、痛みを和らげようとするに手を伸ばした。
「悪い。・・・大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
へにゃりと顔を緩ませると、政宗もほっとしたように息を吐く。
「それにしても、ちゃんって接近戦駄目だねー」
「・・・・・・う、」
「一種の才能でしょうか」
「小十郎様まで・・・!!」
満面の笑みで指摘する成実は、いっそ腹黒ささえ感じさせるほど。言い返したいが、
その通りだと認めて言葉を飲み込めば、狙ったように次の言葉が放たれる。
が接近戦もできるようになろうと、竹刀を持つようになったのは数ヶ月ほど
前のこと。政宗はそのさらに1ヶ月前だったが、もともと戦闘慣れしていたよりも
刀の扱いが巧いのはそういう素質があったからなのだろうか。
何度も刀を合わせたが、勝てたことなど片手で数えるほどだ。
「政宗、今度は俺とやろうよ」
「ああ」
落ち込んだを一瞥し、成実の誘いに乗る。
「はぁ・・・」
何が悪いのだろう。基礎はできていると小十郎からお墨付きを貰ったというのに、
いざ竹刀を持つとこれだ。 目の前で高レベルな打ち合いをくりひろげている二人を
見つめる。
「殿は、接近戦自体が向いていないのかも知れませんな」
「・・小十郎様」
「『攻める』より『護り』でしょう」
より数歩後ろで政宗たちの攻防を見つめながらの小十郎の言葉に、どきりとした。
・・・当たっている。
「--------------政宗様」
突如入り口からかけられた声に後ろを振り向くと、口元に笑みを刻んだ喜多が立っていた。
日頃政宗と一緒なので、彼女を見るのは久しぶりだ。
「--------姉上」
「喜多」
・・・・・・あれ。
何だか聞き覚えのない単語が聞こえた気がする。怪訝な顔で声の主を見上げると、
喜多の笑みが一層深まった。
「久しぶりね、小十郎」
「え、あ、あね、姉上ぇぇぇぇ!!???小十郎様の!?」
新たに知った事実に、二人の顔を見比べる。手を止めてこちらを見ていた政宗と成実は
驚いた表情ではなく、だけが知らないことのようだった。
驚いても無理はない。喜多が絶世の美女といっても過言ではないぐらいの容貌に対し、
小十郎も整った顔をしているがこちらはまるで893だ。
生命の神秘を感じる。
「喜多、どうしたんだ?」
「政宗様、外から行商人が来ていますよ。何やら南蛮の珍しい物品もあるのだとか」
見てこられてはいかがですか、と喜多が言う。
政宗は一瞬首を横に振りかけて、に視線を送った。
「?」
「・・・・ああ、そうする」
政宗が行動すると、護衛のはもちろんのこと、小十郎と成実も後ろについてくる。
小十郎はもともと政宗の世話係のようなものだが、成実は完全に面白がってついてきているのだ。
政宗は内心溜め息を吐きつつも、行商人がいるという部屋へ足を踏み入れる。
「・・・・お初にお目にかかります。今日は政宗様にお会いできて嬉しいですわ」
----------この、声。
政宗が部屋に入ると同時に聞こえた独特のイントネーションに、ぴたりと足をとめた。
突然立ち止まったに、小十郎が怪訝な声を上げる。
「南蛮のものですんで、色々ここでは手に入らんものも揃えとります」
「・・・見せてくれ」
「分かりました」
------------わたしは、この声の主を知っている。
だけれど、と思う。知っている声の主は確かにあちらで消えたはずで(その現場を見たわけではないけれど)、
そんなことあるはずがない、ここにいるはずがないのに。
「わいの名前は--------------」
恐る恐る足を踏み入れると、『行商人』の言葉が止まる。
相手もの顔に驚いたようだった。
「どうして、」
の目に入ったのは、腰までの長い金髪を後ろに一つに括っ た 。
「--------------ジョーカー」
つん、と目頭が痛んだ。
<2009.2.24>
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