優しさの抱擁で眠る-X







「what's!?ここで降りる?」


大層驚いた様子で、政宗は眼を見開いた。こくりと頷くを馬上から見下ろすが、 その無駄に整った容貌のおかげでかなり怖い。思わず身体を縮込ませると、 「sorry」と言って空を仰ぎ見た。


殿、ここに何かあるのですか」


----------分からない、と言うのが本音だ。

紅麗がこの村にいるのかどうか不明だが、あれだけ目立つ容姿をしているのなら どこかで噂になっていても可笑しくはないと思う。噂と言うのはどこ発祥でも いつの間にか知らない場所まで広がっているものだ。現代の都市伝説だとか もそういった類である。もし紅麗がこの世界に来ていて、隠れて生活をしているとしたら。 城下まではさすがに届かないだろうが、村々では誰か知っている人がいるかもしれない。



「探し人を」



自分の足で、目で、耳で。ちゃんと探してみたい。


怪訝な表情で問いかける小十郎を見上げる。未だ空を見上げ何かを考え込んでいる様子の 政宗の向こう側では、成実が眼を細めてを観察しているようだった。


殿、それは---------」
「まあ待て、小十郎。約束だからな、、村に行くのは否定しねえよ」


『やくそく』。初陣にでる前の話を、政宗はきちんと覚えていたらしい。 「でもな、」と言葉を切った政宗に、瞬きを繰り返す。



「探すときは、俺も行く。お前一人では行かせられねえ」
「っ、・・・・・はい」


真剣な様子で、に言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。政宗は、が一人になった途端 逃げ出すとでも思っているのだろうか。そうであれば心外だ。いや、信じられていないことが 悲しい。


悪いほうに捉えたは頭を下げ、地面を見つめる。それを見た政宗は、が暗くなるのは 村に行けないからだと思い込んだ。


「・・・・城に帰ったら、俺が連れて行ってやるよ」
「え、」
「政宗様、それは・・・!」



は4年前から政宗と一緒にいるけれども、基本的には義姫の部下だ。今回戦場に連れて行くのも 許可が要るほどの念の入用だったのに、そんなことをすればまた何か起こるのではないかと 、小十郎は考えてしまう。窘めるように主の名を呼ぶと、政宗は無駄に男らしさを以って、



「俺が何とかする」


と言ってを馬上から抱き上げてしまったのだから、もう何を言っても無駄だと思ってしまうのは 当然のことだろう。






◆    ◆    ◆






と、そういうやり取りをして1ヶ月ほど経った頃。無事に城にたどり着き、いろんなごたごたも ひと段落着いた。心身的にも余裕の出た政宗は、執務室にを呼び寄せるとただ一言、


「出かけるぞ」



と告げた。



「・・・・は、え?」



ずいぶんと急なタイミングである。ぽかん、と間抜け面を晒すと、目の前から伸びてきた手が の鼻を摘む。


「う!・・・痛い痛い!政宗様!」
「あー・・・・・。うん、sorry」
「そーりぃって・・・!」


一体なんだというのだ。ひりひりと痛む鼻を擦りながら、政宗を見上げた。 何がつぼに入ったのか、口元を手で覆い隠し、一人で笑っている。


「・・政宗様?」
「くく、何でもねえよ」



鼻を摘まれたの泣きそうな顔が面白かったなんて、告げたら怒るんだろうなと 思う。政宗は曖昧に笑って誤魔化しながら、の手を取った。



「行くぞ」
「え、あ、ほんとに、ですか?」
「ああ。・・・ま、伊達だってばれねえように歩きだけどな」


この前、政宗が初陣で勝利してから。そのバサラ技に恐怖したのか、焦りを感じたのか。 他の大名も奥州を意識するようになった。その為、今も仙台近くはざわついているから、 馬で行けば政宗だとばれてしまうかもしれない。



「you see?」
「分かりました」



歩いていくことに依存はない。こくり、と頷くと、政宗は口端を吊り上げて笑った。 そして、「いい子だ」とも。



「じゃ、行こうぜ」




<2009.5.5>