「っ--------------ぁ、」


ぎり、と畳に爪を立てる。伸びきった爪が井草に絡まり、畳の目が乱されてしまうのを、 熱で浮かされた目でぼんやりと見つめた。


「はっ・・・・」



熱い。あつい。あつ、い。どうしようもない、熱。外はすでに冬の季節で体は寒いはずなのに、 相手から与えられる熱が本当に熱くて、焼けてしまいそうだ。それから逃れるように、 床を掻く。


「ぁ、う」
、」
「っ、まさ・・・ね、さ」


ひたすらに床を掻こうとする手を、背後からよりも大きくて無骨な手が覆う。そうして、 さらに奥まで押し込められて。



ぶるり、と太ももが震えた。


「も、・・・だ、め」


こわれる、と背後の人物に涙ながらに訴えれば、普段は低い声で異国の言葉を吐く唇が の耳を食んだ。


「-------!」

「あんま、煽るんじゃねえ」


-----------------そうして、爆ぜた。




世界崩落音-V







チチチチ・・・


の意識を浮上させたのは、早朝に鳴く小鳥の囀りだった。いつの間に眠りについたのだろう。 外から聞こえる、決して姦しくはない泣き声を耳に入れながらぼんやりと考える。 障子から差し込む朝日に目を細め、はぐるりと寝返りを打った。


「っ、・・・・」


(政宗、さま?)



後ろを振り向くと、そこには目を瞑り眠っている政宗がいた。あまりに至近距離での 美麗な顔に驚きつつ、は昨日の夜の記憶を思い出す。


そう、あれから。義姫に押し付けられた薬を懐に入れて、廊下に座り込む政宗に会ってから。 部屋の中に入ると、布団を敷く暇もなく組み敷かれて、触られて、快感だけを与えられた。 そうして何度も貫かれて、爆ぜて、意識が飛んだのだ。



じっと、目の前の顔を見つめる。静かに眠りの世界に入り込んでいる政宗は、いまだ起きるような 気配は見せない。もともと政宗はの眼が覚めてから、起こすまで眠っている人だったが、 多分これは信用されているのだろう。それに苦笑して、少し、胸が熱くなった。


手を伸ばす。吹き出物一つ見当たらない綺麗な肌に、はゆっくりと触れた。 伝わってくる温度は、とても暖かで、安心できる。いつからだろうか、政宗に無条件で 身を任せるようになったのは。政宗の声は、に安寧を与えてくれる。優しく触れてくるその手を、 嬉しいと感じる。


紅麗と違うところは、たぶんきっと、の胸がこんなにも熱くなって、もっと触れて欲しいなんて そんな浅ましい願いを、してしまうこと。


(この手が、好き)


政宗の手に、頬を寄せた。ごつごつとしていて、とても硬い。手のひらにはたくさんの肉刺 があった。



(この手がなくなるのは、嫌だ)


義姫は死なない薬だと言った。だけれど、得体の知れない薬だ、何が起こるかは分からない。 そんな薬の所為で、政宗の何かが失われるのは嫌だった。政宗が傷つくのは、見たくなかった。



(なら、決まっている)


心は決まっている。けれど義姫が、薬を飲ませなかったことに憤慨して、政宗を傷つけたらどうしようかと 不安になってしまうのだ。もうあの頃のような、何も知らない異世界の民ではいられない。 彼らの確執は知っているのだから。


(・・・どうしよう)



義姫のことは、好きだ。のことを救ってくれて、生きる理由をくれた。それだけではない、 義姫はきっと悪い人ではないのだ。それは、義姫が仄かに見せる政宗への感情からもちゃんと分かっている。 政宗や小十郎たちは、義姫を誤解しているのだ。彼女は、誰よりも不器用で、人間らしかっただけ。



それに、自分の親と仲たがいなんて、悲しいことだ。それは、紅麗と桜火を見てよく知っていたから。 何とかして、政宗と義姫が両方傷つかない方法はないものだろうか。そうして、 愛情が捻くれて歪んでしまった彼女の眼を覚ます方法は。



「・・・?」


不意に、吐息混じりの寝起きの声で名前を呼んだ青年を見上げた。考え込みすぎていて、政宗の手を 力強く握り締めてしまっていたらしい。美麗な青年の怪訝な顔からそれを悟り、慌てて 手を解く。


「good morning」
「ぐっもーにん」



手を伸ばして、政宗は優しくの頭を撫でる。


「身体、大丈夫か?」
「え?」


撫でる手が心地よく、は自然と目を瞑った。政宗はその様子を見ながら、気遣わしげな 声を上げる。


「昨日、加減できなかったろ」
「あー、う・・・多分、大丈夫です」
「何だそれ」


照れて口ごもるの言葉に、くつくつと咽喉で笑う。


(恥ずかしい・・・!)


穴があったら入りたいぐらいだ。芋づる式に、政宗の温度や艶のある声を思い出してしまったりして、 は頬を朱に染めた。


照れるに、政宗は眼を細めた。眼帯で覆われていないほうの鋭い目には、今は優しげな 光が灯っている。その目はを安心させ、心を温かくさせた。


(ああ、やっぱりこの人を失うことなんて)


---------------------できやしない、から。



だからは、義姫か政宗か、という二つの選択肢ではない、もう一つの道を選ぶことにした。 これなら、政宗が傷つくことはない。誰も、悲しまない。一番ましな選択をしたことに、 は満足感と安堵で微笑んだ。まるで、小さい子供が何かを企んでいるような、そんな無邪気な 笑みだった。


「・・・どうした?」
「いえ、何でもありませんよ」
「・・そうか」



人が無条件で微笑んでくれることとは、これほどまでに嬉しいことだったのか、と思う。 今となればいろんな人がそういう態度で自身と接してくれるから、当たり前のことのようだけれど。 少なくとも、昔の政宗には考えられなかった。幸せだ、こんなときが、過ごせるのだから。



-------------でも、例えば。ここでが考えていることを無理やりにでも聞きだしていれば、 と。そうすれば、あんなことは起こらなかったのに。政宗は今でも、そう思う。






◆          ◆          ◆






「早く、早く」


、こっちに来て、と女は囁いた。あれから四年も経ってしまった。あの日自分が呼び出した 少女はさぞかし成長して美人になっていることだろう。それを想像するだけで、女はますます 少女が欲しくなった。だけれど、こうやって待つ時間はもうすぐ終わりを迎える。 自分たちは、奥州に戦を仕掛けるのだから。すべては、あの少女を手に入れるために。



「・・・市、ここにいたのか」
「長政様・・・」


自分を探しに来た長政に、市と呼ばれた女はふんわりと笑った。



------------もうすぐ、ね。





<2009.8.30>



いつもの事ながら、キャラの喋り方分かりません。テキトーです。 あと、前半はなんか問題あったら修正してアップします。すいません。