・灰男、クロス元帥成り代わりです。 ・おにゃのこですが、口が悪いです。 ・二十台後半? 「アレンさあ・・・・」 日も既に暮れ、今日の修行を、無事とは言いがたいが命を落とすことなく終えたアレンの耳に、 すんなりと中に入り込んでくるような声が聞こえてきた。鈴の音のような高い音でもなく、反対に低くもない -------所謂、中性的な声といえばいいのか、聞いていて惚れ惚れする声色の持ち主は、 わざわざ振り返らずとも分かる。弟子の修行に付き合おうともせず、ごろりとソファーに凭れ掛か っているアレンの師匠、だ。どこで貰ってきたのかは知らないが、 アレンが見たこともないような布を身に付けて(はこれを「浴衣」だと言っていた)、 ワインを煽っている。「浴衣」から大胆に広げている足は、大人の女性といえる妖艶な 美脚だ。アレンは人目を気にしない師匠に向けて、いつも怒ってはいるけれども、 が話を真面目に聞いたことはない。いくらアレンがに向けてそういった劣情を 持っていないとしても、アレンだって男なのだ。少しぐらいドキリとする事だって------- 、ある。しかし、に何度注意しても「はいはい」と言って受け流すだけだから、 アレンも小さく溜め息を吐いて早々に諦めた。 「なんですか、師匠」 ボロボロになったワイシャツをまた着るために、針と糸で補強しようとしたアレンに、 は人差し指で床を指差す。これは、床に正座しろということなのだろう。 の故郷での座り方だといって教えてもらった正座だが、一切免疫のなかったアレンにとっては、 正座は拷問でしかなかった。足はびりびりと痺れるし、なにより、正座を終えた後の 足の状態がなんともいえないぐらいグロテスクだ。できれば一生正座なんてしたくはないが、 の無言の訴えが恐ろしい。アレンは渋々床に座る。 「んー・・・アレンもそろそろエクソシスト名乗っていいんじゃないかと思ってさ」 「本当ですか、師匠!」 「おーよ」 あたしが今まで嘘吐いたことあったかい、とは外ハネの赤髪を掻きながらアレンに尋ねる。 「そんなのいつものことグハアッ!!」 「あ``?何か言った?」 「いえ、言ってないです」 理不尽だ・・・!正直に答えようとしたアレンの目の前から飛んできた黄色い物体は、 が作ったティムキャンピーだ。痛みに顔面を押さえるアレンに比べて、ティムキャンピーは ただただ退屈そうに欠伸を零すだけだ。この、どこか人間臭い物体を指差し、は アレンに告げる。 「ティムあげるからさ、黒の教団行って来て」 「え・・・師匠は行かないんですか?」 「んー?行かないけど?」 何か文句でもあんのか、と言うような目で見られて、アレンは体を震え上がらせる。 何故今日はこんなに機嫌が悪いのだろうか。いつもはもう少し、ほんの少し アレンに対して優しいはずなのだけれども。それにしても、が黒の教団について来てくれない ことに、少しの不満がある。師匠なのだから、弟子の面倒は最後まで見てくれたっていいのに、 とアレンはぶすくれた。 アレンが見せた珍しい反抗に、は目を瞬きながら、タバコに火をつける。 「何で行かないんですか?」 「・・・・聞きたい?」 つい、と口角を持ち上げて、は綺麗に笑う。それだけを見れば、どんな男も惚れてしまっていただろう。 かく言うアレンも、の綺麗な笑みに惹きつけられて、しかし目が決して笑っていないことに 気がついた。ひ、と引きつったような声を咽喉から発すると、はますます笑みを深めて ソファーゆっくり立ち上がる。 「え、な、なんですか・・・?」 「ふふふふふ・・・」 「し、しょう・・!なんで灰皿持ってるんですか・・・?」 そしてなぜそれをこっちに向けて振りかぶるんですかあああああああ!!!! 「あたしあそこ嫌いなのよねえ!」 ガツン!! 頭に走る激痛と、の最後の言葉を聞きながら、アレンは意識を飛ばした。 ◆◆◆ 「アレンー」 「はっ!!」 突然横から掛けられた声に、アレンは大きく体を揺らした。どうやら白昼夢を見ていたらしい。 と別れたときのことを思い出して、意識がすっかり飛んでしまっていた。今の今まで思い出さないようにしていたのに、 それもこれも、今アレンの隣にいる赤毛のウサギのせいだ、と理不尽に睨みつける。 「な、なんさ!?」 「別に何でもありませんよ」 「ぜってえ嘘だ・・・!」 だって目が怖えもん、と涙目のラビから目を逸らし、夢の中で殴られた頭に手をやる。 思い出したことで、実際に痛んできたようだ。顔を顰めるアレンに、 ラビは泣きまねを止めて尋ねてくる。 「そんなに、元帥って怖いんさ?」 「怖いといいますか・・・・サド通り越して、鬼畜ですよね」 「うわ。俺、ちょっと会いに行くの怖くなってきたさ・・・」 何を想像したのか、ぶるりと震える体を抱きしめ(気持ち悪いですね・・・)、 ラビはそう呟く。確かに、絶対に殴られるだろうな、と思う。それか足蹴にされるか。 今からその痛みを想像して、アレンまで身震いしてしまった。 「・・・まあ、ラビは喜ぶと思いますよ」 「へ?なんで」 「師匠、美人ですもん。絶対にラビのストライクゾーンだと思いますけど・・・」 と、ラビに告げると、きらきらとした目を向けられた。「マジで!?」「・・・・マジです」 「楽しみさあ!」「(性格がアレですけどね)」あまりにも単純なラビに 呆れた目を向けつつ、しかしアレン自身もに会いたいのだということに気づいた。 きっと、自身は黒の教団が出したアレンたち助っ人をお節介だと突っぱねるだろう。 アレンはの強さを何度も眼にしてきたし、助けてもらった。何百体ものAKUMAが襲ってきても、 は決して死なない、と根拠もなしにそう思う。(というか、あの人が死ぬときって 人類が滅亡するときなんじゃ・・・)ぞっとした思いにアレンは再び体を震わせ、 そろそろ宿に入ろう、とラビを促す。 「明日には、江戸に向けて出発するんですよね」 「そーさな」 「・・・・・・会ったら色々と問い詰めてやらないと」 そう語るアレンは、いつかの如何様ポーカーのときの真っ黒アレン様でした。(某教団・ L(18)) 女性のアニタさんを毒牙に掛けたことだとか、ちゃくちゃくと増えていく借金のこと だとか。・・・・だけれど、純粋に、会いたい。怒って、借金のことを問い詰めて、 それで抱きしめたい。まだ身長は女性のには届かないが、それでも、細い身体を 抱きしめて、「馬鹿師匠、」って言ってやろう。 |