どく、どく、どく。


「う、ぁ」


どくん、どくん。


っ!大丈夫か!!』


何、何が、起こったの?


がくがくと震える足に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。そうして、硬いものと ぶつかった場所へと視線をやる。・・・やはり、何も見えない。


、』
「かっちゃん・・わたしは、大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ」


実を言えば膝とか肘とかが痛むけれど、恐らく擦り傷が出来ているんだろう。今日は お風呂に入るのが怖いかもしれない。かっちゃんはわたしの返事にひどく安心した様子で、 大きな溜め息を吐いた。


「ね、さっきの何なの」



---------わたしには見えないのに、確かにそこにあったもの。
多分、今もそこにいる。


『虚だ』
「え、・・・それって」


虚は、確かかっちゃんたち死神が倒しているものだ。何故ここにいる。 虚は霊力の高いものしか襲わないはずではなかったのか?


『何故ここにいるかは分かんねえ・・が、多分お前は霊圧がないに等しいから 襲われることはないと思う』
「じゃあ何でさっき!」
『さっきのはお前が自分から虚に突っ込んだんだよ!』



止まれって言ったのに、と脳内で呟く声が聞こえる。そんなの見えないのに 分かるわけがないだろう。いきなり止まれなんて言われても。


「で?どうしたらいい?」
『多分あっちは気付いてねえ』
「え、じゃあ!」


その言葉にじりじりと後ろへ下がる。足が痛い。だが、ここから虚に見つからずに 逃げられたとして、その後はどうするのだろうか。この街の担当である死神に任せる のか?



じりじり、じりじり。


『やべ、気付いた・・・!』
「っ!はああああ???!」



どーすんのよー!!!

こちらはかっちゃんがいるといっても、表には出てこれない。そうしてわたしは 特殊能力は持っていないのだ。このままじゃ、死ぬ。


----------見えない恐怖。
どこにいるのかが分からないということは、完全な無防備状態だ。多分、わたしは 何も知らない間に死んでしまうのだろう。死にたくはない、諦めたくはない。 じゃあ、どうやって-----------?



はっはっ、と荒い息を繰り返す。


『行き当たりばったりで、試してみるか』



「・・なに、を・・」
、いいか』


俺の言うとおりに唱えろよ、とかっちゃんが言って。わたしは恐怖に震えながら、 かっちゃんが言ったとおりに右手をまっすぐ翳した。


今、自分自身ではどうしようもない。だから、ここから無事に逃げ出すにはかっちゃんの 力が必要なのだ。



『”君臨者よ!”』
「く、君臨者よ!」
『血肉の仮面・万象・羽博き・ヒトの名を冠す者よ!』
「焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!」


『「”破道の三十一!赤火砲!!”」』



ドォォォォォン!!!


「ゎ、あ!」


吹き飛ばされる、と思わず考えてしまうぐらいの激しい衝撃が襲い掛かる。丁度虚がいる辺り で爆発がおき、煙が上がる。


「、当たった、の・・・?」


右手をぎゅ、と握り締める。わたしには虚は見えない。だから先ほどの攻撃で、虚は 消えたのだろうか。衝撃を放ってから、ずっと黙り込んだままのかっちゃんへ尋ねる。



『何で・・・撃てるんだよ・・・』
「へ?」


信じられない、とでも言うような、呆然とした声が脳内に響く。何で?何でって・・・ かっちゃんがいるからじゃないの?


『だとしても、お前はただの人間だろ』


普通はありえないことだ、と。生身で撃てるわけがないんだ、と。 その声が、まるでわたしが普通の人間ではないと言っているようで。


「-------くん、また、何か見えるの?」

しゃらり、と少年の手首からブレスレッドが零れる。


さん、」


ざあざあ、ざあざあ。今日も、雨。


「ごめんね、わたしには------才能が、ないから」


わたしにもこの少年と同じように、力があったのなら。


「・・・・許しません。あいつらを」



きっと、あのひとも、生  きて いた。









盗っ人 ぬらりと 烏玉闇夜




「・・・かっちゃん、虚は?どうなったの?」


『-----------消えたよ』


その言葉に、ずるずると壁沿いに座り込む。腰が抜けてしまったようだ。未だぶるぶると 震える手を押さえ、安堵の息を吐いた。


かっちゃんは、何やら考え込んでいる。どうしたのだ、と聞くと、逡巡考えているような 沈黙。ひたすら待っていると、かっちゃんはようやく口を開いた。


かっちゃん曰く、虚は先ほどの爆発----所謂、鬼道は、虚を倒せるものではないらしい。 本来虚は、死神の持つ斬魄刀でないと罪を洗い流してやることは出来ないのだと。 そして恐らくわたしは、虚を消してしまっている、らしい。


『それより、早くここを離れねえと・・・』
「あ、うん」



壁に掴まりながら、必死にこの場から離れる。

未だ、先の衝撃波が、頭から離れないでいた。