「確か、ここら辺だった気がするんスけど・・・」


井上織姫の霊圧を感じ取り、浦原は学校に来たものの、もう一つのおかしな霊圧に気づいた。 グラウンドに倒れていた栗毛の少女ではない。もう少し、微弱であった。それでいて、 混在している、とでも言えばいいのか、かなり微妙な霊圧だ。


テッサイも何かを感じたのだろう。何も言葉を発しないが、先程の霊圧の主を、探している。 浦原はいつもの癖で、扇子で口元を隠した。


「・・・帰りましょっか」
「・・・・はい」


気になるところだが、霊圧は微々たるものだ。そして、混在している霊圧の一つは、 恐らく死神。とりあえず今は、新たに力を手にした人間たちの対応が先だと考え、 もう少し様子を見ることにした。







流浪 瑠璃色 留守居頼みて





あの後、わたしは無事に家にたどり着き、何食わぬ顔で学校に出勤している。 昨日散々暴れ、粉々になったはずのガラス窓も、地面に何故か落ちていた血痕も、 痕跡は何一つなかった。恐らく、以前の侵入者事件と同じように、この町に住む死神が 何とかしたのだろう。



そして、驚いたのは普通に学校に来ている黒崎くん。昨日の事件は黒崎くんたちとは 関係ないのだろうか。



「え、一護?なんで?」


いつものように、作ってきたお弁当をこっそりと渡し、黒崎くんに変わった様子はないかと 尋ねると、ことりと首を傾げて、水色くんはそういった。わたしが黒崎くんの様子を聞くことが ひどく珍しい、というか不思議なようで、何度か瞬きを繰り返す。


「あ、いや、何でもないの。ちょっと、朽木さんが変だったから」


どう誤魔化すべきか。水色くんは、黒崎くんたち死神側とは全く関係ないようだったから、 わたしが黒崎くんの様子を尋ねても、死神に何かを感づかれることはないと思ったのだけれど。 この年にしては妙に悟っている水色くんに聞いたのもある意味間違いだったのかもしれない。 慌てて顔の前で手を振る。



「気にしなくていいよ、わたしの勘違いかもしれない」
『いや、勘違いじゃねえよ』



朽木さんのことに関しては異常に感が冴えているかっちゃんが、脳内でわたしの言葉を 否定する。


(ちょっと黙ってて!)


「んー。一護はいつもと普通・・・あ、でも」
「でも?」
「今さっき、昼ごはんに石田誘ってたけど」



何かあったのかな。そういえば今日石田全身怪我してたよ、と顎に手を当て、思い出したかのように 一つ頷いた。


「そう、石田くんが・・・」



そういえば、石田くんも昨日から様子が変だった。いや、違う、最近からだ。 わたしはそれに気付いていたのに、何も聞こうとはしなかった。だって、--------- 。



さん?」
「ん、?あ、ごめん水色くん」


石田くんの名前を呟き、黙り込んでしまったわたしを水色くんが控えめに呼ぶ。 どうやら思考にどっぷりと浸かっていた様だ。何やら訝しげな表情の水色くんに 笑顔を向け、気にしないで、と告げる。ふと腕時計を見れば、もう昼休みは始まってしまっている。 引き止めてごめんと水色くんに言えば、困ったような顔をしながら、歩いていった。 どうやら、これから屋上に向かうそうだ。


「・・・朽木さん、に話しかけるべきかな」
『怪しまれない程度にな』
「うん・・・・」



小さく返事を返すと、その戸惑いに気付いたかっちゃんが、『どうした』と声をかけてきた。



「いや、朽木さん答えてくれるかな、と思って」
『・・・・さあな』


そもそも。そもそもわたしは、朽木さんに何を聞こうとしているのか。死神云々の話題を 省いて、ただの教師と生徒としての会話なんて、難しい。特に朽木さんの場合、わたしたち ”ただの人間”には猫を被っているし、こちらが朽木さんや黒崎くんの事情を何となくではあるけれど、 把握しているから。どんな顔をして聞けばいいのだろうか。・・・何かあったの、なんて。



----------わたしがかっちゃんなら、あのときの記憶のように。朽木さんを励ましたり、 笑わせたり、リラックスさせたり、できるのだろうか。かっちゃん、なら。