俺は今、学校に来ている。 「おーす、黒崎!」 「・・・えーと・・・はじめまして?」 なんてふざけた返答をしてしまうのも当然のことだろう。ルキアがソウル・ソサエティに 半ば強制的に連れ帰られ、その次の日学校に来てみれば、今までルキアが座っていたはずの 隣の席には、初めて会った人間が座っていたのだから。「初めまして」の言葉に、憤慨した様子で、 その男は『桃原鉄生』と名乗った。 「・・・えーと、すまん」 「ったく、黒崎もかよー」 「・・・『も』?」 桃原の言葉に違和感を感じて聞き返してみれば、まるで俺に訴えかけているようにこちらを見ながら、 言ったのだ。 「ああ、先生もさ、俺のこと”朽木さん”って呼んだんだぜ?」 ありえねえだろ?との桃原の言葉に、俺は曖昧に頷くことしかできなかった。 ルキアの代わりになった桃原、そしてルキアのことを全く覚えていないクラス連中。 恐らくソウル・ソサエティに帰るということは、記憶も、存在も、全て消えるってことだ。 なのにどうして、ただの一教師がルキアを覚えているのか、ということ。 気にはなったが、帰り際には井上が話しかけてきて、どうやら井上もルキアを覚えているらしい。 話し込んでいると、先生がルキアを覚えていたこと、なんて----------------忘れて、しまっていた。 わかれ 喚いて 忘れてしまえ 朽木さんが失踪してしまうなんて、昨日の時点では予想だにしなかった。確かに少し変だなとは 思ったけれど、まさかそこまで追い詰めていたとは思いもよらない。いや、追い詰められていただけなのだろうか。 それだけなら、どうしてクラスの人間が朽木さんを覚えていない?どうして、朽木さんがそこにいたという 証さえ-------消えてなくなってしまっているのだろう。 それをかっちゃんに言えば、 『それがソウル・ソサエティに帰るってことだ』 とはっきりと言われてしまった。その声が妙に悔しそうなのは、朽木さんの霊圧がなくなったのに 全く気付けなかったから、らしい。いよいよ、わたしの身体も死神には優しくないようだ。 でも、ただの人間ってそんなものでしょう。かっちゃんはその言葉に、『お前の身体は余計な』 と諦めた様子でそう語ってくれた。 明日から、学生諸君は夏休みが始まる。わたしは、と言えば、日直だったり、部活だったり、 補習があったりして、自分が学生だった頃のような長い休みはさっぱりない。 あ、だけれど、越智先生と一回だけお茶をする約束をした。今のうちに仲良くなっておこうと言う 魂胆が見えみえだが、教師が息抜きして何が悪い、と開き直ることにした。 そういえば、水色くんにもプーケット旅行に誘われた。付き合ってから二人で旅行なんていったことないし、 夏にプーケットなんてすごく魅力的だ。物凄く行きたかったけれど、上記の理由で断らざるを得なかった。 水色くんは、それに何も言わなかったけれど、心なしか残念そうに見えた。それは、 ちょっと自惚れていいんだろうか。 結局、夏祭りへ一緒に行くことを約束して、わたしは一日を終えた。 これから起こることを知らずに、知ろうとせずに。朽木さんのピンチなんて、 分かろうともしなかったのだ。 |