pipipipipipipi... 「・・・・・・・・ぅー」 pipipipipipi 『、起きろ』 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 『おい、遅刻すんぞ』 呆れたような声。脳内で響くそれにようやく目を開け、身体を起こす。んー。ベッドの上で 大きく伸びをして、洗面所に向かう。 「おはよー」 ぼりぼりと頭を掻きながら誰もいない空間に呟けば、『おう』と簡素な答えが返ってきた。 『、お前な・・・いい加減目覚ましで起きられるようにしろよ』 洗面所の鏡に映った海燕から、苦言が呈される。ああうん、そうだね。ぱしゃぱしゃと 顔を洗い、口の中を漱ぐ。未だ頭の中は未覚醒だけれど、顔はさっぱりしたので タオルで拭う。 『大体いくつだと思ってるんだ、お前』 「だってさ、かっちゃんいるじゃん」 『おい』 「かっちゃんが起こしてくれるから問題なし!」 ふふん、と自信たっぷりに答えれば、呆れたように溜息を一つ落とされた。うん、全然気にしない。 キッチンで食パンをトースターにセットし、リビングに向かう。インテリア屋で一目見て気に入った 青いカーテンを開け、ついでに窓を開けて外の空気を入れる。いい天気だ。 「今日から新学期だね」 テレビのリモコンを弄くりながら、いつもの番組にチャンネルを合わせる。ちょうど天気予報の時間だったのか、 日本列島の地図が表示され、晴れマークが並んでいる。よかった、いい一日を迎えられそうだ。 そんなことを思いながら、カフェオレをコップに注ぎ、椅子に座った。 昨日で夏休みは終わり、今日から新学期が始まる。もちろん教師にとっては夏休み中も 補習があったり、部活があったり、会議なんかで学校へ行かなければいけなかったけれど、 他の会社員に比べれば結構長いお休みだったのではないだろうか。しかし、それも今日で終わり。 気を引き締めていかなければ、と自分に喝を入れる。 「・・・それにしても、暑そうだ」 『がんばれ』 「人事?」 まったく、かっちゃんってば相変わらずだ。 ■ イーチーゴー!!なんて、浅野君の大きな声がここ、学校の職員室にも聞こえてきた。 元気だなあ、相変わらず。そんなことを思いながら机に向かっていると、隣りの越智先生が 小さくため息を吐く。 「相変わらずだねえ、あいつら」 「・・・ふふ、そうですね」 やっぱり彼らの声を聞いて思うことは一緒らしい。それがおかしくて笑うと、越智先生も 楽しそうに笑った。やはり、学校はいい。長いお休みももちろん魅力的だったけれど、 生徒たちと毎日顔を合わせられるというのは嬉しいものなのだ。教師からすれば、 生徒というのは自分の子供のようなもの。授業の準備は確かにしんどいけど、教えるのって 楽しい。ずっと教師でいられたらいいなあ、と思った。 それにしても、浅野君が黒崎君の名前を呼んでいたということは、彼らはソウル・ソサエティ から戻ってきたということだ。いつの間に戻ってきていたのだろう。 石田君も戻ってきたことだし、宣言通り、竜弦さんに二人揃って絞られそうで、今から気が滅入る。 (よかったね、かっちゃん) 『・・・・何がだ?』 (だって、黒崎君が戻ってきたってことは、朽木さんも戻ってきたんでしょ?) と。わたしは、「霊圧が感ぜられないわたし」は。朽木さんがこちらに戻ってきているという 前提で、かっちゃんに話しかけた。何も知らず、何も見えず、何も感じられない、わたしに。 かっちゃんは、何も答えなかった。 染めた 空言 そろりと愛す なんで?・・・なんで?なんで、なんで、なんで、なんで!!!!??どうして、朽木さんは ここにいないの? ぐるぐるぐる、それだけが頭の中を駆け巡る。誤算だった、と思う。黒崎君が必ず 朽木さんを連れ戻すのだとそう信じていたからこそ、わたしが動かなかったというところも あったのだから。(今更言うとただの言い訳にしかならないけれど。)まさか、朽木さんが現世に帰ってこない なんてことは想定外だった。 「先生?」 教室に入って、朽木さんがいないことに気付き黙り込んだわたしに、越智先生は訝しげに声をかける。 その声に、ようやく教室中の視線が集まっていたことに気が付いた。水色君の心配そうな顔に、 石田君の物言いたげな表情。「すみません、何でもないんです」ふるふると首を横に振って みせると、越智先生は腑に落ちない顔をしながら、それでも出欠を取り始める。 ねえ、朽木さん。貴方を求めているのは、なにも黒崎君だけじゃないの。わたしの半身ともいえる 海燕だって、黒崎君以上に貴方を待ってる。ずっと、ずっと、この場所で。 |