平子君が、うちの学校に来た放課後。 「先生」 「ん?あれ、有沢さん」 後ろを振り向くと、空手着を着たままの有沢さんが立っていた。そうか、もう部活の時間だ。 なんだか有沢さんの空手着を見るのは久しぶりだな、と感じてしまったのは、最近空手部 に顔を出していないからだ。これでは顧問失格だ、とと思いつつも、用件を尋ねる。 「どうしたの?」 「明日の、練習場の件で」 「・・・・・・ああ、」 明日から、普段空手部が部活をやっている道場の改装を始めるらしい、と聞いたのは 一週間前のことだ。なので急きょ活動できる場所を用意するためにわたしや副顧問の先生は 走り回った。ようやく見つけたのは副顧問の先生だったけれど、挨拶するために 明日空手部について行くのはわたしだ。 「わたしもいっしょに学校を出るから、そうだね・・・四時半ぐらいに昇降口で集合するように 皆に連絡しといてくれる?」 「はい!」 「場所はもう主将に伝えてあるから」 「はい、ありがとうございます!」 「あはは、見つけたのは鍵根先生だから」 鍵根先生は、他の体育系の部活の顧問もやっているのに、加えて空手部の副顧問まで 努めてくださっている。本当に、今回の件はありがたい。今度の飲み会でサービスしてあげよう、 と頭の中で計画する。 「じゃあ、失礼します」 「うん、頑張れ」 有沢さんは明日のことがよっぽど心配だったのだろう。本当に、見習いたいぐらい 真面目な子だ。確かに、そこが良いところではあるのだけれど。 有沢さんは、どこか、 井上さんを守っているような節がある。危害のあるものから守るように、触れさせないように。 それこそ、自分の身が傷ついても、守り抜くという決意がある。 自分の身より、相手の身を守ろうとする精神が、羨ましくて仕方がなかった。どうすれば 自分本位じゃなくなるんだろう。自分の身が傷ついてでも、相手を助けようと 思えるようになるんだろう。それは、黒崎君や石田君、そして朽木さんにも言えること。 わたしはどこまで行っても自分の身がかわいいと思っている。自分の身が大切だから、 命を賭してまで、なんて守ろうという気が起きないのだ。 痛いのは嫌い。死ぬのは怖い。だから、クインシーであった祖父が命がけで人間を 子から守ろうとする姿は、いつも不思議だった。そんなにボロボロで、虚と戦うごとに 命をすりきらして。そのくせ、守られている人間は「守られている」という自覚すら持とうとはしない。 祖父の存在になど、気付きはしない。それなら竜弦さんの言うとおり、医者の方がよっぽど 堅実的だ。 もしも、わたしにクインシーの力があったなら。けれどもわたしはその力を使って 虚と戦おうとはしなかっただろう。逃げて、隠れて、そう、今と同じように。つまり、 わたしには力があろうとなかろうと、取る行動は同じだということだ。 そこまで考えて、くすくすと笑った。脳内では、かっちゃんが訝しげに声をかけてくる。 --------結局わたしは、あの時から、成長していないというだけの話。 なめて なかせて 馴染ませた指 その夜。巨大な霊圧の持ち主が、空座町に現れたのを感じた。並みの虚ではない。なぜなら、 の身体の中から感じ取れたのだ。本来、のクインシーの血と反発し合って、 俺は霊的なものが感じられないようになっている。ルキアや黒崎、平子元隊長も 目の前にいないと分からなかったぐらいだ。だけれど、元隊長格の霊圧すら気が付かせない 体質に影響を与えるほどの力。しかも、一つではない。全部で四体だ。 --------は、気付いてはいない。 それがもどかしいと思わないでもなかったが、身体のない俺にはを守るような力はない。 だから極力隠れて、虚に見つからないようにするのが一番だ。だから俺は知らせなかった。 新たな死神の登場も、嫌な予感がすることも。 後に、この虚の登場によって、俺たちの運命は大きく変わることとなる。 |