------------夢を、見た。久しぶりに、色のついた、夢を。 いや、正確に言うのなら違うのだろう。これは、おそらくかっちゃんの、記憶だ。 髪も、服装もすべてが真っ黒に包まれた彼は、記憶の中で転入生--------朽木さんと 無邪気に笑いあっていた。 ここは、どこなのだろう。かっちゃんの故郷なのだろうか。広大な空、青々と茂る木々、 多分だけれど、わたしが生きているこの世界ではないと思った。朽木さんも、かっちゃんと 同じような黒の着物を着て刀を携えている。 『なーに、辛気くせえ顔してんだ、おめーは』 『ひいっ』 かっちゃんが朽木さんの隣に座り、何か深刻そうな様子で話し込んでいる。 『忘れんな、オメーがこの隊にいる限り、俺は死んでもオメーの味方だ』 朽木さんの目が、ゆらゆらと揺れる。そうして、ほんの少し、頬が色づいた。 恐らく、かっちゃんはそれに気付かなかっただろう。彼女は、かっちゃんを恋情の目で 見つめていた。 ---------そして、暗転。 再び場面が変わると、かっちゃんの目の先には、すでに息絶えた女性が寝かされていた。 かっちゃんはその「妻」を凝視して、静かにそこに在る。 わたしは、ただ、その女性の身体を見て---------吐き気を、催した。 何故、下半身がないのか。彼女の身体にはシーツが掛けられていたけれども、 下半身の所は、不自然に凹んでいる。 可哀想云々より、ただただ、気味が悪いと。そう思うわたしは、おかしいのだろうか。 『データ採取の前に全員が絶命したため、敵虚の能力は不明・・・』 ・・・ホロウ?彼らは、何と戦っているのだ。そして、目の場所に大きな空洞がある、 化け物は。多分、今かっちゃんが一人で対峙しているこの化け物が、’ホロウ’と呼ばれる ものだ。 --------気持ち悪い。 そして、かっちゃんは、馬鹿だ。『一人で行かせてくれ』なんて。 触手のようなものを掴んだ途端、刀は簡単に砕け散った。いくつもの紐がかっちゃんの 体内に入り込み、’彼’でなくなった彼は、朽木さんの手により貫かれた。 ぼろぼろと、かっちゃんの身体がメッキのように剥がれ落ちる。 信じられないものを見るように、朽木さんは目を見開く。かっちゃんの死は、 朽木さんにトラウマを与えてしまったのではないだろうか。 朽木さんは、そして長髪の’隊長’と呼ばれる人は。かっちゃんに置いていかれて、 何を思ったのだろう。 波紋 弾いて はじまる連鎖 は、と目が覚めた。今日はかっちゃんの声に起こされることも、目覚ましのベルで起きることもなく、 自然に目が覚めた。寝起きだけれど、妙に頭が冴えている。ベッドを抜け出し、 部屋の片隅においてある全身鏡の前に座り込んだ。 「かっちゃん。・・・・・・海燕、」 久しぶりに、その名を呼んだ。鏡に映し出される黒髪の彼は、大の字に寝転んで顔を手で 覆っていた。 「海燕・・・」 ひたり、と鏡に手を当てる。鏡面が水のようにゆらゆらと揺れ、それは海燕の心情を表すように 治まることはない。 わたしの中にいる海燕には、触れられない。唯一つ、彼の姿が見られる鏡さえも、 鏡越しのため、触れるのは冷たいガラスだけだ。 「海燕」と、もう一度その名を呼んだ。今度はピクリと反応をした彼は、ゆっくりと身体を起こし わたしに視点を定める。ひどい顔色だ。わたしが彼の記憶を夢見たように、彼もまた自分の 記憶を思い出したのだろう。 『・・・俺、全部思い出した』 「・・・うん」 『ルキアをヒデー目に遭わせた。アイツ・・優しいから、きっと今でも、悔やんでる』 「そう、だね」 わたしは朽木さんを知らないけれど、かっちゃんの記憶を見る限り、優しくて、不器用だと思った。 『俺は、ルキアに、 もうあんなこと忘れていいって、すまなかった って、もう一度言うために----------ここにいるんだ、きっと』 海燕は、震える声で、そう告げた。 ----------朽木さんだけじゃなくて、海燕も、隊長さんも、みんな不器用だよ。 |