『ああ、そういえば・・・俺死神だから』


と、わたしの中にいる彼は、さも今思い出したかのようにそう言った。


「はあ・・・それは、凄いね?」


何をカミングアウトするかと思えば。思わずとめてしまった手を再び動かし、 小テストの採点をする。おお、さすが石田君だ。この子は小テストにすら妥協しないようだ。 丸ばかりのテストを眺め、コーヒーカップを取る。


『お前、それだけか?』
「それだけって・・・他に何かあるの?」
『だから・・・死神なんだぞ、死神!』
「分かってるよー」



かっちゃんはその単語をやけに強調するように、何度も何度も告げた。難聴じゃないんだから、 そんなこと分かってるよ。死神だからなんだというのだ。ふぅ、と小さな溜め息を吐く。


「あのね、かっちゃんと20年近くも一緒にいるんだよ?今更死神だからなんか反応しろなんて・・・」



一言で言ってしまえば、全然怖くない。むしろだからどうしたというのだ。そう言ったことを かっちゃんに話すと、呆れたのか思い溜め息を吐いてこう告げた。


『何か・・・おめーらしいな』
「何それ、褒め言葉?」
『・・・言ってろ』



不貞腐れたように、海燕は言い放つ。それに内心苦笑しながら、わたしは机の上を片付け始めた。 次は1−3での授業である。かっちゃんが記憶を思い出してから、数日経ったが、 朽木さんとは先生と生徒の関係以外で何も接点はない。


この身体の持ち主であるわたしと、死神の海燕の人格交代が起こったことは今まで一度もない。 海燕が表に出れないということは、わたしが朽木さんに海燕のことを告げても信じてはもらえないだろう。 聞くところによると、死神の世界には記憶を消す、’記憶置換’なる代物があるらしいから、 下手なことを口走ると危ない気がするのだ。ただの人間であるわたしに使われでもしたら溜まったものではない。



それに、---------わたしには、他の死神も、幽霊も、虚も見えなかった。


一度試してみたのだが、かっちゃんが「そこにいる」と告げた場所を見ても、わたしには ただの風景にしか見えなかったのである。そんな人間が死神事情に入り込むのも どうかと思ったので、かっちゃんには悪いがいつもどおりに過ごさせてもらっている。



そう言うと、かっちゃんはまた無駄に格好良く、



『いいさ。記憶を思い出しただけでも儲けもんってもんだろ』


と、笑うのだけれど。






「え、と・・・・茶渡くん?その、鳥かごは・・・」



昼食も終わった4限目、腹も膨れほとんどの生徒が睡魔に襲われそうになる時間。 噂の朽木さんと一緒に教室に現れた茶渡くんを見て、思わず固まってしまった。



「・・・貰い、ました」
「おおい!またお前はしょってんな!」


わたしの質問に少しだけ考えて答えた茶渡くんに、浅野くんからのいつものようなノリ突っ込み 。あはは。


「って、茶渡くん凄い怪我・・・!どしたの?!」
「・・・なんでも、ないっす」
「事故って何でもないって答えるチャドもチャドだけどよ、今怪我に気付く先生も凄いよな」


何でもないと答える割に重症っぽい気がするのは気のせいだろうか。そして、黒崎くんの 的確な突込みが来る。・・ええい、うるさい。しょうがないでしょ、鳥かごにかっちゃんが 反応するんだもん。



『・・・鳥かごより、中のインコだな』
(そうなの?)
『ああ、微弱だけどな。霊が入ってるんだろ』



まあ、あれぐらいならルキア達が何とかするだろう。とかっちゃんが言うから、心配はないのだろう。 かといってわたしがどうにか出来るのかといえば何も術はないのだけれど。


とりあえず席に着くように指示すると、わたしはようやく授業に入ることにした。






濁る 虹色 西日をころす




(とりあえず茶渡くん、鳥かごは机から下ろしてね)
(む・・・・・)