【・・・昨日午後5時32分頃空座町三丁目の路上で乗用車5台による・・・】 「はあ・・・物騒だねえ」 机に並んだ、白米と味噌汁、魚に卵焼き。これぞ日本の和食だと自信を持って言える 食事を目の前に、わたしは朝のニュースを見ながらそう呟いた。 三丁目ってすぐそこのクロサキ医院の所じゃないか。危ないな。 『・・・昨日か』 「ん。でも、死傷者なしみたいだし、良かったよ」 ずず、と味噌汁を啜りながらかっちゃんに返事をすると、何かを考え込んでいるようで、 ただの沈黙が返ってくる。まあ、何かに気付けば後で言ってくれるだろう。 沢庵を齧りつつ、今度は新聞を広げる。 「あーやっぱ事故の事載ってるなあ」 『・・・昨日のインコ』 「え?ああ、茶渡くんの?」 かっちゃんにそう言われて、すぐさま思い浮かんだのは茶渡くんの持っていた鳥かごだった。 確かにかっちゃんが気になっていたようだったし、霊的なものが関係しているのだろうか。 そう言うと、『考えすぎかも知れねえけどな』とまるで自分に言い聞かせるかのように 告げる。 「霊の仕業だったとしても、わたしにはどうしようもないしねえ」 『あー、だな。ま、今度なんか試してみっか』 その言葉に何か嫌なものを感じたのだが、「何を?」と聞いてみてもかっちゃんは 誤魔化すだけで何も教えてはくれなかった。まったく、わたしも当事者なんだから 少しぐらい何か言ってくれてもいいのに。 「って、やば、遅刻する・・・!」 不意に目に入ったテレビの時計を見、急いでご飯をかきこむ。教師が遅刻したなんて 洒落にならない。準備を済ませ、マンションの階段を駆け下りると、学校への道を 駆け出した。 『事故んなよー』 「分かってるよ!」 こういうとき、本当に車が欲しいと思う。便利だし、早いし。ああ、なんで大学生のときに 車の免許取らなかったんだ自分。今じゃ取ろうにも、教習所に通う暇がないのが難点だ。 かっちゃんと言い合いをしながらもようやく学校にたどり着く。久しぶりに全速力で走ったからか、 以外に余裕を持って着いた。 「とりあえず化粧直したい・・・トイレトイレ」 『余裕もって出ねえからだろ、二度手間じゃねえか』 「・・・すーいーまーせーんー」 自分で反省してるんだから、そんな古傷を抉るようなこと言わなくていいのに。 職員トイレに駆け込み、鏡の前で簡単な化粧を施す。よかった、そんなに乱れてはいないようだ。 まさかのベースからやり直しだったらどうしようかと思った。 『女って、大変だな・・・』 「はは・・・本当は面倒だから化粧したくないんだけどね、一応マナーだから」 ああもうほんと、化粧をしなくて良かった学生時代に戻りたい。そんなことを考えつつ、 トイレから出ると、職員室に戻る。まだほとんどの先生方が来ていないようだ。 椅子を引き、ゆっくりと腰掛ける。朝から頑張った。ぎい、と音を鳴らす椅子の背凭れに 凭れ掛かりながら、息を吐き出す。 『とりあえず・・・』 (ん?何?) 『いや、気配が分からないのが一番困ると思ってよ』 (・・・一般人に気配を悟れなんて無茶な話だよ) 漫画なんかでは殺気だとか、気配が分かることがさもステータスであるかのように 設定されているが、現実でそんなことできるのはそうそういないのではないかと思う。 そういうかっちゃんは今分かるのかと聞いてみると、 『お前の身体だしな、目の前にいるとか相当強力な場合じゃねえと分かんねえ』 と返ってきた。一般人なんてそんなものだよ。遠くにいる人の気配なんて分からないし、 日常生活にそんな能力は要らない。そんな力をくれるぐらいなら、時間と金と若さをくれ。 彷彿 星々 誉れと称え 昼休み、ご飯を食べようと社会科職員室に向かう。他の先生方は別の場所で食べているようだ。 誰もいない、ラッキーだと思いつつ、机の上にお弁当を広げる。 ピリリリリ・・・ 「ん?電話・・・?」 今まさに口の中へ入れようとした瞬間、色気のない電子音が職員室に響き渡る。 そういえば電源を切るのを忘れていた。誰だろうかと思いながら携帯を取ると、 ディスプレイには、【M】と表示されていた。 「もしもし?・・・・あ、うん」 【--------------】 「今?社会科職員室」 【-------、-----】 「・・・分かった。待ってる」 【------------------】 「ん、じゃね」 会話を終え、電源を切る。 『誰だ?彼氏か』 「え・・・!や、う、あの、えー」 恥ずかしい。尋常じゃなく、恥ずかしい。だがここで誤魔化したところでかっちゃんは 全てを知っているので、あまり意味はない。「そーだよ」と半ば開き直りつつ 携帯を机に戻すと、図ったようなタイミングで職員室の扉がノックされた。 |