「・・・ん?」 1−3の授業に向かおうと廊下を歩いていると、向こう側から歩いてくる朽木さんと、 引きずられている黒崎くんに遭遇した。よく見れば黒崎くんは意識を失っているらしい。 「朽木さん」 「む・・・・あら、先生」 「今から授業始まるけど・・・どこ行くの?」 「黒崎くんが急に倒れたので、保健室に連れて行っているところですわ」 うふふ、と口元を隠して朽木さんは笑う。確かに黒崎くんは白目を剥いていた。 若干の違和感を感じつつ、「そうなの」と頷く。 「分かった、じゃあ朽木さん、よろしくね」 「ええ、分かりました」 笑顔で朽木さんとすれ違うと、再び足を進める。それにしても。 「保健室、逆方向だけどね」 その小さな後姿に、ぽつりと呟いた。 灯る ときめく 年ごろむすめ 「ぎにゃーーーーーーー!!!!!」 「ん・・・?」 お茶に手を伸ばそうとして、微かに聞き覚えのある叫び声に気がついたわたしは、 ぴたりとその手を止まらせた。そして隣に座っている越智先生と目を合わせる。 「今の・・・有沢か?」 「みたい、ですね」 有沢さんといえば、いつもは教室でお昼を食べているはずだから、1−3から発した叫び声が 職員室まで届くとはよっぽどだ。一応不審者は校舎内に入ってこれないようになっているはずなのだけれど。 気になったわたしが席から立ち上がると、越智先生もやれやれといった様子で立ち上がった。 「何やってるんだかねーあいつらは」 「あはは・・・」 職員室を出、1−3がある階にたどり着くと、廊下には机が投げ出されている。 これには二人とも固まった。何故に。 「あ、先生。何があったんですか?」 「ん?越智先生に先生!・・・不審者だそうですよ」 「不審者ぁ?」 越智先生が訝しげな顔になる。確かに、何故わざわざ3階などに上がってきたのか。 越智先生ともども首を傾げていると、ひどく憤慨した様子の先生は、早急な片づけを命じると、 そそくさと行ってしまった。 「・・・・何だったんでしょうかね、あれ」 「さあね。鬼でも立ってたんじゃないですか」 と、投げやりになりながら答えた越智先生とともに教室に足を踏み入れる。 教室の中は、ひどく荒れていた。竜巻でも起きたのではないかと思わず疑ってしまうぐらい 、机がぐちゃぐちゃだ。これはただの不審者じゃないだろう。 「有沢?これ、どうした」 「越智先生!先生も」 教室の入り口に立っていたわたし達に気がついたのか、小川さんが声を上げる。 教室の真ん中に立っていた有沢さんは、荒い息を抑えようと深呼吸を一つ吐いた。 聞けば、黒崎くんに似た人物が下の階からいきなり上がってきたらしい。そうして あろうことか井上さんと有沢さんにキス、を。それだけ聞くと、その人物は黒崎くん ではないような気がする。シャイボーイだしね。 その後朽木さんが怖い顔をして入ってきて、黒崎くんらしき人物は、また下の階に飛び降りていってしまった そうだ。それにしても3階からとは。黒崎くんであるにしろ、不審人物であるにしろ、 到底人間じゃない。 「とりあえず、片づけましょうか」 腕時計を見れば、もうすぐ昼休みが終わってしまう頃だ。そろそろ午後の授業が始まる。 その言葉にクラスの皆が動き始めると、わたしも机の配置を元に戻し始めた。 |