高校の授業とは、こんなにつまらないものだったろうか。お経のような、淡々とした
授業を右から左に受け流しながら、耐えられなかった欠伸を一つ。もしかしたら、
一度勉強した内容だからかもしれない。眠気を吹き飛ばすために、ちらりと
隣を見遣る。
(あれ、ちゃんとおきてる)
生徒の半数が眠ってしまった中で、花井君は一生懸命教師の話を聞き、ノートを
忙しなく取っている。これだけ真面目であったら、先生も嬉しいだろうなあ、と
同じ野球部である阿部君と水谷くんが沈んでいる姿を見比べて思った。
ばちり。花井君と目が合った。・・・や、なんでそんなに挙動不審なの、花井君。
あたしから眼を逸らして、きょろきょろと視線を彷徨わせる花井君は、ノートに何かを書き込むと
あたしに見えるようにそれを寄せる。ええと、何々。・・・『何だよ?』
特にこれと言った理由はないのだけれど。花井君の真面目さに脱帽していたというか
何というか。とりあえず返信を、と思って自分のノートに書き込む。
『眠くないのかな、と思って』花井君が、書き込んだ内容を呟く。
『・・・眠い』
『あ、やっぱり?』
ふふ、と笑いを零せば、花井君が爆睡中の水谷くんを指差す。ああ、起こせってこと?
言っとくけど、あたしの起こし方容赦ないよ。学生時代も、同じ野球部だったあいつに
この方法で起こしたら殴られたからね。何で!?親切心じゃん!・・・みたいな?
ガンッ!!後ろから、水谷くんの椅子を蹴り上げる。臀部を乗せていれば、
かなり腰に響くだろう。そう、つまり。あたしは、水谷くんのお尻が乗っている板の部分を
思い切り爪先で蹴ったのだ。「うわあっ!」と大きな声を上げて、水谷くんは立ち上がった。
よかったね、眼が覚めたじゃん。未だ頭が寝ているのか、状況把握ができないのか。
水谷くんはキョロキョロと辺りを見回した。
「・・・・水谷ーそんなにテストしたいか?」
「え、・・・・ええええ!!?したくないっす!」
「もう無理だ、諦めろ」
先程の無表情で授業をしていた教師は途端に笑顔になって、嬉々としてテストを配りだす。
ありゃ、この教師実は腹黒属性か。それかサドだ。水谷くんの叫び声に次々と目を覚ました
生徒たちは、突然の抜き打ちテストに大ブーイング。・・・うん、これはあたしも予想外だった。
だからそんな呆れた目で見ないでよ、花井君・・・!
『お前な・・・』
花井君の唇が、そう動く。すいません。あと、阿部君からの睨み攻撃も勘弁してください。
■
「ちょっと・・・!さっき椅子蹴ったのだろ!!!」
「やー何のことでしょう」
ちょうど抜き打ちテストとともに授業終わりのチャイムが鳴って、今はお昼ご飯の時間。
いつもは千代と中庭で食べるんだけど、今日はチャイムが鳴ると同時に水谷くんに
無理やり七組の野球部の輪の中に入れられたのだ。千代もちゃんと一緒だ。
「だって花井君が起こせって言うからー」
「まさかあんな起こし方するとは思わなかったんだよ・・」
「あはは、確かに音凄かったよね」
「しのーか笑い事じゃないよ・・・!」
「水谷くん、・・・・ドンマイ☆」
「誰の所為だと思ってんの!?」
え、さあ?誰の所為でしょうか。えへ、と自分でも気持ち悪いと思いながら首を傾げると、
正面から舌打ちの音。
「舌打ちとかひどくない!?阿部くん!」
「キモイ」
そんなの自分でもわかっとるわい!一々言う必要ないじゃん?あたしマジで阿部君に嫌われてるのかな
・・・出会ってまだ一週間だっていうのに。あー、ダメだ。ちょっと気分が沈んだ。
大人しくお弁当を食べ始めると、千代が沈黙に耐え切れないかのように口を開く。
「あ、そういえば明後日から合宿だね!」
「あーそうだな」
「え、合宿あるの?」
千代の言葉にうんうんと頷いていた水谷君たちは、あたしのその言葉にぎょっとしたように
目を見開いた。え、なに!?怖いんですけど。「、聞いてないの!?」え、
聞いてないも何も、あたし野球部じゃないし。
「モモカン、『ちゃんも来るからねー』とか言ってたぞ」
「え、聞いてないんですけど・・・」
どういうことだ、マリア。
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