最近、ボンゴレに取って邪魔な人間が死んでいる。ボンゴレにとってよくない人間というか マフィアというか。任務として部下を派遣する前に死んでいるから恭弥や骸の仕業かなあとも思ったけれど、 それにしては相手が抵抗したそぶりがない。病気で死んだ奴もいるし、抗争に巻き込まれて死んだやつ、 事故で死んだ奴もいる。偶然だろ、と武は言うけれど、本当にそうだろうか。 04.俺と彼女 「じゃあ、以上で終わりですが何か質問は?」 隼人がぐるりとあたりを見渡したが、誰も質問はないようだった。「十代目」あ、うん、 終わっていいよ。そんなことよりもザンザスに聞きたいことがあるから。隼人が会議を閉めると同時に、 幹部たちが席を立つ。その中の一人に視線を定めて、名を呼んでみた。 「ザンザスー」 「・・・・・・・何だ」 うちの幹部とヴァリアーが動きを止めて、こっちを見る。 「あのさ、今度のパーティーに彼女連れて来てよ」 「・・・・何言ってやがる」 そもそも彼女なんていねぇよ、と不機嫌そうに告げるザンザス。だけど、ネタは上がってるんだからね。 「本屋の女の子」 にっこり笑いながらそのワードを呟けば、ザンザスの顔が益々歪む。あー楽しい。ザンザスと 本屋の女の子の姿を見たのは、ハルらしい。なんでも、欲しい本を買いに本屋に行けば、 あのザンザスが優しい顔で笑ってたとか。ハルといえば恋だ愛だといつも言ってるけれど、 そのときだけは偉い真剣だった。それほどザンザスの表情が信じられないものだったからだろうか。 そういうわけで、俺自身ザンザスのお相手とやらをこの目で見たくなったわけだ。ザンザスは 格好もいいし強いからモテる。だから愛人がたくさんいることは知ってたし、それに口出しするつもりは一切ない。 けれど、ハルがあそこまで言うんだ。興味を持ってみたって文句はないだろう? 「連れてくる必要がどこにある」 「俺が見たいから。あと、ザンザスもそろそろ周りの人間に牽制しとかなきゃいけないんじゃない?」 ザンザスは俺と違って、十代目じゃあない。でも、やっぱヴァリアーのボスなんだし、 強い遺伝子は残しとかなきゃいけないっていう方針は今でも根強く残ってる。だからザンザスにも 結婚問題は付いて回るわけだ。他のマフィアの女性と政略結婚しなければいけない可能性も 無きにしも非ず。でも、もしもザンザスに本気の女性がいるのなら、その人を周りに見せつけと けば、結婚問題からはとりあえず回避できるはず。これでも俺部下思いだよ? ザンザスのために提案してるんだ。 「自分の楽しみの方が九割超えてるだろ」 「うるさいよリボーン」 一蹴すると、家庭教師様はくい、と帽子の鍔を下げた。 「あらあ、でもあたしも見てみたいわー」 「俺もーなんか楽しそうなのなー」 「うおぉぉぉぉい!山本はなんか違うだろぉ!?」 これ以上うちのボスを刺激するのはやめてくれ、と叫び声が聞こえたけれど無視だ無視。 ザンザスはこちらを睨めつけてくるだけだ。でも俺の考えが変わらないことを悟ったのか、 舌打ちをして去って行った。 その後ルッスーリアに聞けば、いそいそとその彼女のためにドレスを買ったらしい。というか オーダーメイドだ。何でルッスーリアがそんなこと知ってるかって?それは、ザンザスが「女の好みがわからん」 って言ってルッスーリアに聞いてきたらしいから。この話を聞いた時はほんとにびっくりしたね。 もしかしたらザンザス本気なのかなあって、思わず呟いちゃったぐらいだよ。 ■ そして、ザンザスにエスコートされて入ってきた女性を見て驚いた。確かに美人というか可愛らしいけれど、 今までのザンザスの愛人とは全然違うタイプの人だ。なんかオーラがほんわかしてて一緒にいると 癒されそう。こういう場所に慣れてないんだろうか、ザンザスがどこかに行ってしまって不安げだ。 笑みを張り付けて、彼女のもとに向かう。 「初めまして」 「え・・・・と?」 「沢田です。沢田綱吉」 「あ!ザンザスの上司さん・・・ですよね?」 知っていたのか。ザンザスが仕事のことを女性に話すと思わなくて、驚いてしまった。 眼を見開くと、彼女は間違えたと思ったのか頭を下げる。 「すみません、違いましたか?」 「いや、知ってるとは思わなくて」 「・・・ザンザスの話によく出てくるので」 そう言って、苦笑しながらザンザスがいる方へ眼をやる。同じように視線を向けると、ザンザスは 別の女に絡まれていた。ザンザスの立場を知らない人間か、ヴァリアーのボスと知っている人間か。 ここから会話は拾えないが、ザンザスの心底迷惑そうな顔が少し笑えた。 視線を戻すと、彼女は苦笑していた。 「やっぱり、ザンザスってモテるんですね」 「んー、あー。・・・だね」 早く、ザンザス戻ってきてあげればいいのに。こんなに不安そうな彼女を置いて行くなんて、 男の風上にも置けないぞー。 「あ、私、九軒と言います」 「くのぎ?やっぱり日本人か」 「はい。沢田さんも?」 「うん。仕事でね、日本からこっちに来たんだ」 東洋人っぽいなあ、とは思っていたけど、同じ日本人だったとは。日本人ならこんなに童顔 でもおかしくはない。俺と同じか、一つ下ぐらいだろう。こんな異郷の地で日本人と出会うとは。 なんだか親近感が湧く。 「よろしくね、同じ日本人同士」 「・・・・・え、・・・・」 す、と差し出した手のひらに、九軒さんはびくりと震えた。握手に慣れていないのだろうか、 と最初は思ったけれど、それにしては様子が変だ。顔が引きつっているし、何かを言いたそうに 俺を見上げてくる。それでもおずおずと手を差し出して、「よろしくお願いします」と 小さく呟いた。 ----------あ、れ。この人、なんか。 「あ、の・・・」 「あ、ごめんね。部下が呼んでるみたい。また時間があったら」 「はい」 じゃあね、と手を振って、リボーンのところに戻る。 「どうした。浮かねぇ顔だな」 「んーちょっとね」 と、誤魔化したものの、うちの元家庭教師様はたぶん騙されてくれないのだろう。 でも、さっきのは一体何だったのだろうか。九軒さんの手を握った瞬間、悪寒がした。 強烈な寒気と、怠惰。もしかして、九軒さんが握手を渋ったのは、この所為? 手のひらを見つめながら考える。そうしていると、ふと影ができた。ゆっくりと見上げると、 そこには女に囲まれていたはずのザンザスの姿。 「あれ、九軒さんは?」 「・・・・・クノギ?」 誰だそれ、とザンザスは眉根を寄せる。あれ、もしかして名字を知らない・・・? なんだか変な関係だなあ。 「さんだよ、九軒さん」 「・・・・いつの間に知り合ってやがる」 「えへ?」 ったく、と言いながら前髪を掻き上げるザンザスは、不機嫌そうに告げる。 「スクアーロに任せてある。・・・ずっと付きっきりってわけにもいかねぇだろ」 「あー、挨拶回り?ザンザスも大変だね」 「てめーも行くに決まってんだろうが」 わかってるよ、ちょっとしたジョークじゃんか。相変わらず冗談が通じないやつだなあ。 唇を突き出して拗ねたふりをするとリボーンとザンザスの両方から呆れたような視線が送られてくる。 ぱしゃんっ これだけ多くの人間がいるにもかかわらず、その音は、水が跳ねる音だけは、やけに大きく聞こえた。 一瞬にして静まり返るパーティー会場。視線の先には、件の女性。綺麗にまとめてあった髪の毛からは、 ぽたぽたとワインの赤が垂れ落ちる。九軒さんは、びっくりして声も出ないようだった。 「うおぉぉぉい、何やってんだぁ!?」 スクアーロの焦った声にようやく時間が動き出す。片手に飲み物を持ったスクアーロは九軒さんに 駆け寄っていった。おそらく、ザンザスと一緒に来た九軒さんにザンザスファンがワインをぶっかけたのだろう。 ビアンキとかなら避けつつ、さらに反撃も仕掛けそうだけれど、九軒さんは一般人だ。 それは、先程握手した時に握った手のひらの感触からもわかる。彼女は人生で一度も 銃などの武器を握ったことがない。マフィアじゃない、普通の人。いつの間にかザンザスの姿は 隣りにはなく、どこにいたかと思えば九軒さんのところだった。 「本気らしいな、ザンザスのやつ」 「みたいだねー。あとでスクアーロ殴られそうだな・・・」 うん。可哀そうだと思わないでもないが、こちらにまで怒りが来るのはごめんだし、それに せっかくザンザスに任されていたのに離れるなんて良い根性してるよ、スクアーロ。 END
<2010.3.10> 暗殺部隊なのにパーティー?・・・そんな突っ込みは不可です← |