*このお話は、戦争・流血表現がございます。
温いですが、グロテスクな表現に嫌悪感を感じるかたは閲覧にご注意ください。
いつだって嘲りの対象だった。浅黒い肌、真紅の瞳。
自分たちは何もしていないのに、いつだって世界は自分たちを見放す。
いつか神が救ってくれると、教主は言うけれど。
ドォンッッ!
「く、そぉぉぉお!!!」
降り注ぐ銃弾、物言わぬ肉片。
昨日まで隣で笑っていた人間が、恐怖にかたちどられて死んで逝くこの状況は、
あんたの言う神が救ってくれないのか、と。
銃弾や爆弾に殺されていく同族を尻目に、
目の前にいる兵士の股下を潜り抜け、後ろからナイフで一気に頚動脈を掻き引いた。
首から噴出するおびただしい量の血液を被りながら、隣で銃を構えなおした兵士の腹へ蹴りを入れ、
その小さな身体に似合わぬ力強い蹴りにぐらついた兵士に右手をお見舞いする。
バチンッと何かが弾ける音がして、兵士の腹は無残に‘崩れた’。
「っは、ぁ」
すぐさま兵士の持っていた銃を拾い、弾数を確かめる。
1,2,3,4・・・。これだけあれば十分だ。
己の身長と同じぐらいの銃を片手に、再び走り出した。
***
「ソラン!」
人目を憚るような小さな声に、ソランは声のほうへ振り向いた。
戦域からうまく隠れるように存在する物陰にはひっそりと眼鏡をかけた青年がいて、
こちらへ来いと手招きする場所へ走り寄る。
「ソラン・・・無事だったか」
「ああ」
心底安堵したかのように微笑まれ、ぎこちなく頷いた。
青年が血のこびり付いたソランの顔を手で拭い、視界を良くしてくれる。
自分の右手も身に付けた服で血を除けていると、目の前の青年が困ったように眉を下げた。
「どうかしたのか」
「・・・錬丹術を使ったのか?」
___錬丹術。
目の前の青年と同じような刺青をした右手を振るい、アメストリスの兵士の腹へ当て。
青年に教わった知識を活用し、兵士の決して薄くはない、鍛えられた腹を‘分解’した。
さして隠すことでもあるまい。「是」と口にする。
「ソラン・・・」
「問答はあとだ」
何かを言いかけた青年の言葉を切り、ぴしゃりと投げかける。
と同時に「兄者」と大きな声で青年を呼びかける声が外から聞こえた。
きっとこの声は自分に体術を教えてくれた青年だ。
いつまでも家から出てこない兄を迎えに来たのだろう。
何かを話している兄弟から目を離し、持っている銃の確認をする。
先程襲い掛かってきた兵士たちへ連射してしまった。弾数もあまり多くはない。
「行くぞ」
自分にそう呼びかけた青年へ頷くことで返し、前を走る青年の後を追った。
***
それから先は、おぼろげな記憶しかなかった。
崖の上で怪しく笑った錬金術師と、その後に起こった大きな爆発。
反射的に顔を腕で覆おうとした瞬間の、視界に映った己と弟を守る青年の大きな身体。
そして、
神 な ど 、 い な い 。
<09'1'17>