*全く原作に沿えていません。ご注意ください。






「刹那・F・セイエイ」
「・・・・・・・・・・は」




名を告げると、男はぽかんと間抜け面を晒し、固まった。






今日はヴェーダに選ばれた4人のガンダムマイスターが、初めて顔合わせをする日である。
もともと人と接触せずに、エクシアばかりに触れていた刹那だ。
この話が刹那に届いたときに、スメラギからはずいぶんと心配された。
例えば銃を発砲するなとか、殺気を向けるなとか。
スメラギは刹那を何だと思っているのか、そもそもそれは心配しているのか?と聞いてみたかったけれど、 そういえばスメラギとの初対面は 銃を構えたかもしれない。



固まってしまった男を尻目に、目だけで辺りを窺うと、この茶髪の男のほかに2人の人間がいた。 刹那からすれば羨ましいことこの上ない長身をもった柔和な青年と、目つきの悪い紫色の髪の青年。
どちらも-------いや、目の前の男も合わせて-------ガンダムマイスターに選ばれるだけのものはあるのだろうが、 特に長身の男は刹那にもどこか違和感を感じさせた。
・・・・ぶれている。気配が、二重になってしまっている。



この感覚はどこかで感じたことがある、と思い出そうとして、未だ目の前の男が刹那を見て 固まってしまったままの状態に気づいた。
何だ、アンタが名前を聞いたから答えただけだろう。
内心訝しみながら、やはりどうでもいいことかと思考をやめて踵を返そうとしたときだった。


がしり、と右腕を掴まれ、否が応でも男と顔を合わせられる。
・・・あまり人間に触れられるのは気分がよくない。
眉根を寄せると、目の前の男はその翠の双眸を つい、と細めた。
仕方ないな、と呆れたように。どこか昏い瞳で。


「おいおい、刹那。お前それだけかよ」
「・・・・・・・」


何か他に言うべきことでもあっただろうか。
その問いが顔に表れていたのか、目の前の男は「まあいい」と苦笑した。
その反動で長い茶髪が揺れる。



「俺はロックオン・ストラトスだ」


と自分を指差し、次いで後ろを振り返ると、前髪で目を片方隠した長身の青年を「あいつは アレルヤ・ハプティズム」と紹介した。 ・・・・・先程から、視線が鬱陶しい。
関わるのも面倒で放っておいたが、こうもあからさまな悪意を含まれるとこちらも気分が悪い。
何のようだ、と紹介されなかったもう一人のマイスターへ視線を向けた。




「・・・・・・・・・・・・・・・ティエリア・アーデ」
「・・・・・・・・・」
「僕は君がガンダムマイスターだなんて認めない」
「ティエリア!!」


ピンクのカーディガンにまる眼鏡、肩までの髪。ティエリア・アーデはまるで女だ。
刹那を睨みつけながら放ったティエリア・アーデの言葉を、アレルヤ・ハプティズムが悲鳴のような声で遮った。
いや、実際悲鳴だったかもしれない。
ティエリア・アーデはその声にも耳を貸さず、刹那をじっと見つめて、もう一度同じ言葉を呟いた。
そして、「何故ここにいるのか」とも。



「・・・・・・・・・」
何故、なんて。
そんなもの。




ふるり、と首を横に振る。答えられる術は、俺にはなかった。
ただ一つ、言えるのは、



来たくてこの世界に来たわけじゃ、無い。








ティエリアの詰問とも言える質問に、刹那は首を一振りしただけで、ルームから早々と出て行ってしまった。
その首を振るという行動が何を指すのかは知らないが、あの無愛想な表情や言動に、何を思わないでもない。
思春期なのだろうか。自分が刹那ぐらいのときはどうだっただろうかと、記憶を呼び起こそうとして_____ ぴたり、と思考を止めた。



「どうだった?」
「・・・・・・・・ミス・スメラギ」



世の女性が羨みそうなプロポーションを強調するような服を着こなしたスメラギが、ロックオンの目の前に座る。
いつの間に近づいてきていたのだろうか。思考の海に沈んでいて気づかなかった。
机の上に広げていた空の食器を退けると、スメラギは妖艶に笑って、頬杖をついた。
・・・・・・まったく、この人は自分の見せ方を良く知っている。


「で?」
「何がですか」
「あら、分かってるでしょ?ロックオン」



他のマイスターたちよ、とスメラギが笑う。先程とは違う種類の笑みに、密やかに苦々しいものが含まれていて、 やはり今自分が陰鬱な表情をしているのだな、と思う。
今日は初めてマイスターが全員揃ったが、あれほどまで個性的なキャラが集まるとは思っていなかった。
刹那を筆頭に、ティエリアも。アレルヤはどうだか知らないが、比較的マシな人種だろう。
あの二人は本当に酷かった。
そういったことをスメラギに伝えると、彼女はゆるゆると目を伏せ、数秒黙った後再び目蓋を押し上げた。



「まあ、ティエリアもあれだけど・・・・刹那は、’違う’から」
「違う?」



どういう意味だろうか。確かに他の誰よりも雰囲気は違っていたけれど、それはこのCBに参加する時点で 誰しも悲惨な過去はあるだろう。
スメラギに答えを求めると、彼女は小さく息を吐いて、一言「守秘義務よ」と呟いた。




「まあ、彼らにも--------もちろんあなたにも色々思うところはあるでしょうけど、」
「・・・・・・・・」
「同じガンダムマイスターとなるのだからそれなりの結束は築いて頂戴ね」



・・・・まったく、スメラギさんは無茶を言う。
スメラギの言葉に、ロックオンの口から思わず苦笑が漏れて、口元を隠すように右手を当てた。
確かに、自分たちマイスターがぎすぎすしていては、プトレマイオス中の、ひいてはCBの雰囲気をも壊すことになる。
そうなれば自分たちの助かる確率も低下してしまうし、なにより自分たちの問題で他の人を危険に晒してはならない。
やはり彼らに信頼関係を生ませるには、マイスターで一番年長の自分が何とかしなければならないのだろう。



「分かりました」



そんな返事とともに頷くと、スメラギは満足気な様子で笑った。




<09'1'18>