*刹那偽者警報。閲覧にご注意ください。






「刹那ー」




顔合わせの翌日から、ロックオン・ストラトスはよく刹那に声をかけてくるようになった。
初日はあんなに面倒臭そうに目を細めていたのに、何の心変わりだろうか。
気になったことは事実だが、結局ロックオン・ストラトスも他人であり、自分にはマイスターとして でしか関係のない人間だ。尋ねるほど気にはしていないが、今のように勝手に部屋の中へ入ってくるのは どうかと思う。


「なんだ、刹那いるなら居留守使うなよ」
「・・・・・・・・・・」





ハロ片手にそういわれても、全く罪悪感が湧いてこない。
そもそも居留守使ったところであんたはハロに開けさせるじゃないか。
いいたいことは色々あったが、結局いつものように流されるだけだろうと思ってやめた。

ロックオン・ストラトスから視線を外し、手に持っていた端末に再び視線を落とす。
端末に記載された内容は、今度のファーストミッションについてだ。
模擬演習から、今回は本当の戦闘へ。いつ誰がミッションで命を落とすかわからない。
今はへらりと笑っているロックオンも、無表情の刹那も、内心は不安を抱えている。
だけれど、CBの指針たるマイスターがそれを顔に出せば、他のクルーたちだって普通ではいられなくなるだろう。
それほど、これからのミッションは重要なのだ。
だから、ロックオンもアレルヤも、(ティエリアはどうかは知らないが)刹那も己の負の感情を、 表には出さなかった。


不安。いつだって不安だ。人間はあっけないほど簡単に死んでいくことを刹那は知っているから、 余計に不安に駆られる。あの人も自分も------あの圧倒的な力の前には無力だった。



最後の一行に目を通し、端末を切ったと同時に、先程まで珍しいほど静かだった ロックオン・ストラトスが、刹那の名を呼んだ。


「なんだ」


顔を上げると、何かを企んでいるんじゃないかと思ってしまいそうなイイ笑顔のロックオン・ストラトス が刹那を見つめていた。嫌な予感がして、反射的に腰を引く。



「な、なんだ」
「んー?」



何でもないぜ、と言いながらロックオンは刹那のベッドに腰掛け、腰を引いた刹那に近づいていく。 ずりずり、ずりずり。決して大きくはないベッドの上を男二人が動き回る様は傍から見れば 滑稽だろうが、少なくとも刹那にすれば真剣なことだ。


なんだなんだなんだ。

ロックオンの右手が刹那に迫り、その手から逃げられようと身体を反らした途端。
トンッと軽やかな音を立てて背中に壁が当たり、刹那はとうとう壁際に追い詰められた。


(しまった・・・!)






◆   ◆   ◆






ロックオンが刹那に構う理由など、何故かと聞かれれば、ロックオンはスメラギに言われたからだ、 と答えるだろう。実際スメラギに頼まれてしまったし、ロックオンとしてもマイスター同士がぎすぎすした雰囲気の中 でミッションを行うのは避けたいことだ。


ただ、刹那を『違う』と言ったスメラギの表情と、時々その年齢に不釣合いな、どこか悟ったような表情をする 刹那と何か関係があるのだろうか。と考えてしまって、ロックオンはずっと刹那のことについて考えている。
そして、そんな絶望してまったような顔をしてほしくない、と。

そう思ってしまってから、ロックオンが刹那にかまう理由はスメラギに言われたからという理由だけではなくなっている。 だから、ミッションの情報に目を通しながらも置いて行かれたような、絶望した顔をした刹那を 壁際に追い詰めたのも----------そんな顔をして欲しくないからだ。
いつものように、鬱陶しそうな顔でもいい。ただ、その表情だけは、見たくなかった。



「刹那、」
「・・・ロックオン・ストラトス。退け」


怒った声色で言葉を発する刹那の目は、その声に反してひどく不安げに-----いや、これは怯えているのか。
むっつりと眉根を寄せた刹那の目がゆらゆらと揺れ、ロックオンを映し出す。 刹那の表情はいつも無表情に近いが、それでも感情がないわけではない。
ただ、その感情の表し方がわからなくて無表情に固まってしまっているだけだ。
けれども、刹那の目が表情の代わりを担っている。 だから、ロックオンは刹那の色々な表情を見たことがあるのだけれど、こんな-------怯えたような 目は、初めて見た。


(俺が、こんな目をさせてんのか?)



ロックオンの背をぞわりと撫でる衝動。その名は、------『征服欲』。


その邪な考えがばれたのか、刹那はロックオンから逃れようと必死に身を捩り、 あからさまに怯える。

(馬鹿だな。そういう行動をすればするほど-----)


ロックオンは『征服欲』という衝動そのままに、逃げようとする刹那の顎を右手で掴んだ。 「っ、ロックオ、ン・ストラト、ス・・・!」 成長期であろう刹那の顔は、ロックオンの片手と同じぐらいの大きさで、右手で身動きができない ように力を入れられては、刹那も喘ぐようにロックオンの名を呼ぶことしかできないようだった。 ぎしり、と右手の力を入れると、怯えと同時に痛みに耐える刹那の顔に、ゆっくりと顔を近づける。 そのまま唇を-------


その時、刹那の真紅の瞳に、ロックオンのひどく歪んだ顔が映った。
今にも舌なめずりをしそうに歪んだ唇に、細められた目。翠の瞳は隠しきれない情欲が顕れている。 そう、いうなれば、これは。


’雄’の貌。




「っ、わりぃ」

刹那の目に映った自分にぞっとして、ロックオンは刹那の体から離れた。ベッドから降り、 床に転がったままだったハロを持ち上げる。後ろから戸惑ったような気配が伝わってきたが、 ロックオンはそれに振り返ることなくドアへと向かい、ロックを外して部屋を出た。
ドアが閉まるのを確認して、壁に背を預ける。


-------扉が閉まる瞬間の、刹那の泣きそうな顔が印象的だった。



「・・・くそっ、」


何がしたかったんだ、自分は。くしゃりと前髪を掴んで俯く。
刹那にあんな顔をさせて--------悦ぶなんて、本当にどうかしている。



数分前の自分を罵ってやりたかった。

<09'1'18>

若干修正。・・何だ資料って・・・時代錯誤にもほどがある。(2009.2.6)