*ホラーゲーム、『零〜紅い蝶〜』 (射影機というカメラで霊と戦います。 主人公は双子の姉妹で、姉は昔、足に怪我をしてます。)のパロです。 *ひどい捏造がございます。時間軸的には黒曜編の後。 *主人公(=姉)が半端なく暗くて、病んでます。 *前編です。 それは、ひっそりと静かに、燻りつづけていた仄暗い心。 ◆◆◆ ようやく家に辿り着くと、は大きな溜め息を吐いた。クラスで学級委員なん てものをやっている所為で、はよく雑用を頼まれる。今日もその所為で、遅 くまで残って仕事をしなければならなかったため、帰宅時間がこんな時間になっ てしまった。周りはすでに真っ暗な闇に染まっている。 がちゃり、とノブを捻ると、中から途端に大声が聞こえてきた。この声はランボ だ。いつもながら騒がしい子供である。疲れと騒音に若干苛立ちながら、靴を脱 いで家の中に入り、リビングに顔を出す。 「……ただいまー」 「あら、ちゃんお帰り」 小さく声を掛けると、リビングのドアに背を向けていた奈々が振り返った。遅か ったのね、と心配した表情で告げる母親の奈々は、何やら駄々を捏ねていたラン ボから離れ、立ち上がる。 「姉ちゃん、おかえり」 「ξλθφηδ」 「姉おかえりー」 奈々の手料理を囲んだ綱吉、イーピン、フゥ太に「ただいま」と返事を返す。 「遅かったな」 「……あ、うん。先生に用事を頼まれて…」 夕食の席でエスプレッソを飲んでいるリボーンは、のその言葉に綱吉を一瞥 した。その含みのある目付きに気付いた綱吉がびくりと身体を震わせる。 「クラス委員か…」 「俺はやらないって!」 そもそも委員会決めはもう終わったじゃんか。慌てて首を横に振る綱吉に、苦笑 する。 「ちゃん、夕御飯は?」 「あ、今着替えてくる」 リビングを出て、洗面所に入ると手を洗い、そうして階段まで歩くと、右足を引 きずりながら、ゆっくりと階段を上り始めた。手摺りに掴まりながら、一段一段 確実に踏みしめる。 ようやく二階に着いた頃には、はすっかり息切れしてしまっていた。こめか みを伝う汗を拭いつつ、綱吉の部屋の隣にある自分の部屋に足を踏み入れる。 「は、あ」 ――疲れた。 教科書の入った鞄を床に下ろし、ベッドに倒れこむ。身体が重くて、そのまま沈 んでいってしまうのではないかと思った。 の足は、小学生の頃、怪我をした所為で満足に動かせない。母親の奈々の実 家がある皆神村に、たまたま弟の綱吉と遊びに行っていて、足を滑らせたのだ。 その日の前日は雨が降っていたため、土砂で滑りやすかったのだと、母は言って いた。 ずきん、 「っ…」 足が痛む。 そうして、あの子の楽しそうな顔を見るたびに。 胸が、痛む。 「やだ……」 こんなことを考えたくはないのだ。は布団を手繰り寄せると、頭からそれを 被った。 ◆◆◆ 寝過ごしてしまった。ベッドの頭上にある目覚まし時計を止めたは、寝起き のぼんやりとした頭でそう思った。今日は日曜日で学校がないから良かったが、 休日でもこんな時間に起きてしまうとは、には珍しい。疲れていたのだろう か、と思いつつ起き上がって服を着替える。 とん、とん、と手摺りに掴まりながら、階段を下りていけば、リビングには見知 った顔。 「よ、。今起きたのか?」 「姉さん、おはようございます!」 「…山本くん、獄寺くん…おはよう」 山本と獄寺は、弟の綱吉の友達だ。獄寺の方は綱吉に「十代目」だといって、ま るで主従関係がそこにあるかのようだが。どういった経路で彼ら三人が友人とな ったのか、には分からない。 「綱吉、母さんは?」 洗面所から出てきた綱吉は、これから出掛けるのか小綺麗な格好をしていた。い つの間にか一階に下りてきていたの姿を認め、ぱちくりと瞬きを繰り返す。 「買い物行ってくるって出掛けたけど」 姉ちゃんは疲れてるから寝かせとけって言ってたよ、と靴を履きながら綱吉が言 う。 「そう……」 「姉ちゃんも行く?」 「どこに?」 「いろいろ。これから三人で遊びに行くんだけどさ」 靴ひもを結び終わった綱吉が顔を上げ、を見つめる。山本も獄寺もその提案 に同意し、を誘った。 「――――いいよ。誘ってくれて嬉しいけど、今日はやることあるから」 ふるふると首を横に振って、口元を緩ませる。 「ありがと。いってらっしゃい」 「……ん、行ってきます」 綱吉たちに手を振り、閉じられた玄関から目を反らす。奈々も子供たちを連れて 買い物に行ったのだろう。騒がしい休日がいやに静かだ。嫌いではない。こんな 静かな日常も。 「い、た…」 突如じくじくと痛みだした右足に手を添える。 嫌いではない、けれど。 ―――嫌なことばかり考える。 「綱吉、」 独りにしないで。一緒にいて。ずっと、ずっと。 ――ねえ、あの約束を、覚えてる? ◆◆◆ ガラッ 「うっ……ごほ、」 奈々に頼まれたものを探すため、は庭にある小さな倉庫を開けた。しばらく 使っていなかったためか、中はひどく埃っぽく、思わず口元に手を当てる。倉庫 内で埃が舞っており、中の様子が見えない。 「え、と…扇風機……は、と」 ようやく納まってきた埃に、倉庫へと足を踏み入れる。物置となっている中は乱 雑で、恐らく綱吉辺りが適当に放り込んだのだろう。 「あ、これ……小さい頃よく遊んだなあ」 懐かしいものが辺りに散らばっている。懐古の念を覚えながら、は扇風機を ようやく探し出した。引っ張ろうとすると、がしゃん、と何かが落ちる音。一緒 に引きずってしまったのだろうか。 落ちた箱にそっと手を伸ばす。やけに古びたそれは、蓋の部分にお札のようなも のが貼られていた。 「禁……魅、……触?」 まるで封印でもしていたかのようだ。先ほどの落下のせいか、すでにお札は破れ てしまっている。なんとなく‘嫌な予感’がして、は箱を片付けようとした 。箱を持ち上げると、かたん、という音をさせて蓋がひとりでに開いた。 「……なに、これ。カメラ?」 中に入っていたのはずいぶんと重そうなカメラだった。ぱっと見ただけでも古そ うで、高価そうなものだ。はゆっくりとそれに手を伸ばし、カメラに触れる 。--------突然の、頭痛。 「っあ!……ぅ、」 八重、八重、どこにいるの?紅い蝶、が。『一緒に逃げよう』けれど、ずっと待 ってる。『後ろを振り向いてはいけないよ』 ―――映像が、記憶が、頭の中に入ってくる。これ以上触れていれば気が狂って しまうだろうに、伝わってくる感情が淋しくて、‘似ている’。 「だめ……綱吉、・・・助け、」 儀式。双子の約束。お姉ちゃん、私、いいよ。貴女なら、構わないの。『どこへ 行ったの』八重なら絶対に戻ってくる。赤い糸。ずっと、願ってた。『殺して』 ふと、飛び回る--------紅い、蝶。 「・・・・・・・『ずっと、一緒にいてね』」 ――そうして意識は、闇の中。 渇望の約束 |